日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI37] 情報地球惑星科学と大量データ処理

2015年5月28日(木) 11:00 〜 12:45 203 (2F)

コンビーナ:*豊田 英司(気象庁予報部数値予報課)、若林 真由美(基礎地盤コンサルタンツ株式会社)、野々垣 進(独立行政法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 情報地質研究グループ)、豊田 英司(気象庁予報部数値予報課)、村田 健史(情報通信研究機構)、寺薗 淳也(会津大学)、堀 智昭(名古屋大学太陽地球環境研究所 ジオスペース研究センター)、大竹 和生(気象庁気象大学校)、堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、座長:豊田 英司(気象庁予報部数値予報課)、若林 真由美(基礎地盤コンサルタンツ株式会社)

11:15 〜 11:30

[MGI37-18] フローとストックのシームレスな統合に基づく気象庁防災情報XMLの利活用

*北本 朝展1 (1.国立情報学研究所)

キーワード:気象情報, データベース, 気象庁防災情報XML, 気象警報, リスクマップ, フローとストック

地球観測情報に関する2つの見方に、フローとストックがある。フローとは情報の流量、ストックとは情報の総量を指す概念である。フローとストックのどちらに価値があるかは目的によって異なる。例えば天気予報の場合、ほとんどの価値はフローにある。最新の天気予報には価値があるが、1年前の天気予報には価値がないため、天気予報の情報システムはフローに最適化された構成となる。一方、ストックには異なる価値がある。例えば、過去の事実への参照、すなわち「何年ぶり」の現象や「過去最大」の現象などの解釈は、人間の意思決定を支援できる。また過去の事実の分析から、長期的なトレンドやバイアスなどの新たな視点が生まれることもある。
ゆえに我々は、フローとストックのシームレスな統合が地球観測情報の利活用における挑戦的な課題であると考えている。その一つのケーススタディとして、気象庁防災情報XMLの利活用を目的としたフローとストックのシームレスな統合に取り組んだ。気象庁防災情報XMLとは、気象庁が発表する防災情報の利活用を促進するため、防災情報電文のフォーマットをXMLに統一したものである。運用開始は2011年5月12日であるが、2012年12月17日には気象庁ホームページにおける試行的な公開も始まり、一般の人々も利用しやすくなった。我々も2012年12月以来、気象庁防災情報XMLの蓄積を継続しており、2015年2月までに73万件を越える電文をストック化した。例えば、このストックを種類別の統計情報として分析すると、最も多い種類は府県天気概況の約17.5万件、気象警報・注意報も10.1万件に達し、2013年8月22日から始まった気象特別警報・警報・注意報が6.9万件存在することなどがわかる。
気象庁防災情報XMLはフローとしての活用を意図した情報であるため、ツイッター等のフロー型SNSへの自動投稿(ボット)という利活用には馴染みやすい。我々もアカウント@JMAXMLAlertsにおいて、特別警報・警報(注意報は省略)/記録的短時間大雨情報/土砂災害警戒情報/竜巻注意情報/全般台風情報/全般・地方・府県気象情報の内容を自動投稿しており、多くのユーザに利用されている。とはいえ、フローからフローへの変換だけでは、利活用の方法としてありきたりである。フローからストックへの変換を通して、もっと創造的な利活用が見い出せるのではないかと考えた。
最初に試みたのが「気象警報データベース」である。これは全国に発表された特別警報・警報・注意報(以下まとめて気象警報と呼ぶ)をデータベース化したものである。ここでフローからストックへの変換が必要となる理由は、気象警報の発表と解除が複数の電文にまたがる点にある。気象警報の発表と解除の期間を確定するためには、電文のフローを監視しながら状態を管理しなければならない。我々はこのロジックを実装したシステムを構築し、リアルタイムに更新するデータベースとして公開した。その結果、気象警報に関する発表(継続や解除も含む)約1320万件の中から、気象警報約175万件を抽出した。大まかに分析すれば、175万件の始点と終点となる350万件は発表および解除、残りの970万件は継続に対応することになる。そして、個別の気象警報から気象衛星画像やアメダス等の気象データや災害データなども参照できるよう、リンクを設置した。
このデータベースを使うと、地域ごとに発表された過去の気象警報の件数を把握できる。そこで、これを地域ごとの気象リスクの代替指標として利用できないか、との考えに基づき公開したのが「気象警報リスクマップ」である。例えば、全国で最も気象警報の発表が多い都道府県(正確には府県予報区)はどこかといえば、実は秋田県である。なぜ秋田県が多いのかと言えば、濃霧注意報が多いからである。では秋田県は、全国で最も濃霧のリスクが高い地域なのだろうか。これを評価するには、発表基準の問題なども関わってくるため、一概にそう結論づけることはできない。しかし少なくとも、全国で公平に注意報が発表されているかという問題意識にはつながる。また、大雨警報は新潟県が最も多い、高潮警報は根室地方が最も多いといった、定量的な分析ならではの相対的なリスク評価も得られる。このことは、短い時間スケールを対象としたフロー情報が、フローからストックへの変換を通して、長い時間スケールではリスク情報にもなりうることを示す。
筆者はこのようなフローとストックのシームレスな統合に以前から関心を持っている。例えば「デジタル台風」は、台風データを対象としたデータベースではあるが、こちらもフローとストックの統合を中核的な概念に据えており、フローからストックへの参照を通して、フロー情報を適切に解釈するための文脈をユーザに提供することを目指している。このような方法論は、広く地球環境情報の利活用に適用できるものと考えている。