日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 岩石・鉱物・資源

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 203 (2F)

コンビーナ:*三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)、角替 敏昭(筑波大学生命環境系)、藤永 公一郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:角替 敏昭(筑波大学生命環境系)

14:30 〜 14:45

[SCG58-05] 北上山地の前期白亜紀火成岩類のジルコンU-Pb年代の特徴

*土谷 信高1佐々木 惇1足立 達朗2中野 伸彦2小山内 康人2 (1.岩手大学教育学部、2.九州大学比較社会文化研究院)

キーワード:アダカイト, ジルコン年代学, 北上山地, 岩石化学, 白亜紀

地球型惑星の中で地球だけに多量の花崗岩質大陸地殻が存在することは,惑星としての地球の大きな特徴であり,花崗岩質大陸地殻の形成機構を明らかにすることは,地球の進化過程の解明に通じる重要な研究課題である.初生的な大陸地殻物質の代表としてアダカイトがあるが,アダカイトの成因やその上昇機構については未解決の問題も多く,それらの成因を明らかにすることは岩石学的に重要な意義を持つ(Moyen and Martin, 2012).北上山地の前期白亜紀火成岩類は,様々なアダカイト質岩の産出で特徴づけられ,アダカイト研究に重要な位置を占める.多様なアダカイト質岩の成因を明らかにするためには,それらの年代学的検討からその時空変遷を明らかにすることは極めて重要である.本報告では,北上山地の前期白亜紀火成岩類のジルコンU-Pb年代と岩石化学における情報を総括し,それらの特徴を説明可能なテクトニクスについて議論する.
 土谷ほか(2015)は,アダカイト質花崗岩類とそれ以外の火成岩類の13岩体22試料について,ジルコンU-Pb年代を新たに報告した.その結果,アダカイト質花崗岩体東列のもの(127~118 Ma)よりも西列のもの(119~113 Ma)の方が若いことが明らかとなった.また東列のアダカイト質花崗岩についてみると,階上岩体(126~125 Ma)から高瀬岩体(118~117 Ma)まで,北から南に年代が若くなる傾向が認められた.アダカイト質花崗岩類以外の深成岩類と岩脈類では,大浦,一戸,姫神,気仙川のカルクアルカリ~ショショナイト質の花崗岩類および斑れい岩類,さらには岩脈類の高Sr安山岩のいずれもが,128~124 Maの狭い範囲に収まることが明らかとなった.岩脈類のうちの高Mg安山岩の年代は明らかではないが,深成岩類による接触変成作用の影響が普遍的に認められることから,高Mg安山岩の活動もこの頃には始まっていた可能性が高い.以上のことから,北上山地の128~124 Maの火成活動では,広い範囲に様々な化学組成のマグマが同時に活動したことになる.
 アダカイト質花崗岩体東列の花崗岩類は,沈み込んだスラブの脱水分解溶融で形成されたメルトが固結した典型的なアダカイトであると考えられ,多量のアダカイト質マグマが上昇して固結するアダカイトフロントを構成すると考えられる(土谷ほか,2015).石狩-北上磁気異常帯(Finn, 1994)の分布がアダカイト質花崗岩体東列の分布と非常に良く一致することから,アダカイトフロントは磁鉄鉱を含むアダカイト質花崗岩による地磁気正異常帯をなしていることが分かる.アダカイトフロントのさらに海溝寄りには,前期白亜紀の火山砕屑岩を主体とする原地山層が分布する.原田ほか(2013)による小本層の砂岩の砕屑性ジルコン年代分布から推定された原地山層の年代は132 Maであり,これは北上山地の前期白亜紀火成活動のうちで最も古いものである.原地山層の火山岩類は,同じ地域に分布するカルクアルカリ質花崗岩類と共にアダカイト質花崗岩体東列のものと一体となり,石狩-北上磁気異常帯(Finn, 1994)の起源となっていると考えられる.以上のことから,原地山層の火山岩類は,石狩-北上磁気異常帯の規模(南北500~600 km)に相当する前弧域の大規模な火成活動帯と考えられる.
 前弧域での大規模な火成活動の存在や高Mg安山岩類の存在は重要な特徴であり,沈み込み帯が異常に高温であったことの証拠になると考えられる.またアダカイト質花崗岩類の成因に関しては,より古い東列のマグマは脱水分解溶融で形成され,またより若い西列のマグマは含水溶融で形成されたものと考えられる(土谷ほか,2015).すなわちアダカイト質花崗岩の活動は,高温の東列から低温の西列に移っていったことになる.以上のことから,北上山地の前期白亜紀火成岩類のマグマ発生場は,異常に高温な状態で始まり,その後次第に冷却して113 Ma頃に終了したと考えることができる.西列の花崗岩類の年代(119~113 Ma)は,より背弧側の阿武隈帯の花崗岩類の年代(118~100 Ma; Kon and Takagi, 2012; 高橋ほか,2014)の古いものとほぼ一致している.したがって,この時期の火成活動の主体は,より背弧側の阿武隈帯に移っていたと考えられる.阿武隈帯の花崗岩類にはアダカイト質岩は非常に少ないことから,アダカイト質岩およびその関連岩の活動は北上山地にほぼ限定され,またその活動は時代と共に弱まったことになる.
 以上の年代学的および岩石学的特徴を説明可能なテクトニクスとしては,海嶺沈み込みモデルおよびスラブのロールバックあるいは断裂モデルの2通りの解釈が可能である.どちらのモデルが正しいかを決めるためには,火成活動の時空変遷をさらに高い精度で明らかにする必要があろう.