日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)

18:15 〜 19:30

[SVC45-P13] 神津島,838年噴火推移の復元

*内藤 武1鈴木 桂子1 (1.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:火砕流, 火砕サージ, 定置温度

神津島は,伊豆マリアナ弧の銭洲海嶺上に位置する火山島で,16個の流紋岩質単成火山からなる.最新の噴火活動である西暦838年噴火は,火砕物の活動に始まり,溶岩ドームの形成で終わった.火砕物の活動は主に火砕流噴火で,島内の地形的低所に火砕流台地を形成し,地形的高所では原地形を覆うように分布し,分布域毎に岩相が異なる.堆積物の岩相変化と定置温度の推定に基づき噴火の経緯を調べた.
火砕流堆積物は,推定給源である天上山との間に地形的障害を挟む場所では,ラミナの発達した火砕サージ堆積物の岩相を示す.一方,推定給源との間に地形的障害がない場所では塊状の岩相を示す.島の南部,松山鼻付近では標高の上昇に伴って火砕流堆積物から火砕サージ堆積物へ移行する様子が見られた.このことから発生した火砕流は地形的な障壁を乗り上げる際に構成物を落とし希薄な火砕サージへと変化したと考えられる.
天上山火砕流堆積物中の7地点8層準から合計79試料を採取し段階熱消磁実験を行った.その結果,50試料が安定磁化成分を示した.試料は常温で定置したものから650℃で定置したものまで幅広い値を示した.火砕流堆積物の定置温度は,南部・南西部では常温堆積と200℃-350℃での堆積を示し,西部・北西部では,火砕流は450℃以上で,サージは500℃以上で堆積したという結果が得られた.地点KZ7(多幸湾)と地点KZ5(前浜)では安定磁化成分2成分を持ち200℃-350℃の範囲に定置温度を示す試料がみられた.このことから島南部へ流れた火砕流は溶岩ドームが200℃-350℃まで冷却された後に崩壊して発生したと考えられる.地点KZ1(前浜)では,11試料中7試料が常温定置を示し,そのうち3試料は安定成分を持たず,堆積物中に炭化木片が含まれる.地点KZ4(前浜)は常温定置を示す全11試料中,9試料が安定成分を示さない.これらの地点に到達した火砕流は流動中に冷却されたことが示唆される.一方、島の西部KZ3(沢尻湾)と北西部KZ2(長浜)では常温堆積を示す試料と,500℃-650℃を示す試料がみられ,比較的高温を示す物質が多い.常温を示す試料については,KZ3は安定成分を持つ試料のみが存在し,KZ2は安定成分を持たないものもみられる.このため,KZ3,KZ2へ到達した火砕流は,内部が500℃-650℃の溶岩ドームの崩壊によって発生し,KZ2へ堆積したものの一部は流下しながら冷却されたと考えられる.
これらのことから,以下のような噴火推移を復元した.838年噴火では,火砕流噴火の発生時に今の天上山の位置に溶岩ドームが成長していたことが考えられる.火砕流は,主に溶岩ドーム崩壊によって発生した.南部から南西部に到達した火砕流は流動中に冷却が進行し,常温で堆積した.北部に堆積した火砕流は,南部よりも高温状態で崩壊が発生した.地形的な障壁を乗り上げたものは火砕サージへ変化した.