日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:黒川 宏之(名古屋大学大学院理学研究科)、松本 侑士(国立天文 天文シミュレーションプロジェクト)

16:30 〜 16:45

[PPS21-22] GJ1214b 大気の流体力学的散逸

*渡辺 健介1倉本 圭1 (1.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:流体力学的散逸, GJ 1214b

2009 年に発見が報告された系外惑星GJ 1214b は,地球の約2.7 倍の半径と約6.5 倍の質量を持ち,その密度は1.9 g/cm3と,岩石と氷の中間の値になっている.そのため,GJ 1214b は巨大氷惑星として誕生し,その初期には海王星と同様に水素を大量に保持していた可能性がある.一方,最近のトランジット観測(例えばKreidberg et al., 2014) によると,GJ 1214b は高い分子量の気体で構成された大気を持つと推定され,ここから過去に恒星の強いEUV (極端紫外線, Extreme Ultra Violet)放射によって流体力学的散逸が起き,水素がほぼすべて失われた可能性が示唆される.
これに対しLammer et al. (2013)はGJ 1214b に水素が豊富な大気を仮定し,現在のEUVフラックスを与えてその流体力学的散逸を数値的に解き,散逸率がホットジュピターHD 209458b に対し観測的に推定されている水素流出率 (Vidal-Madjar et al., 2003) の一割未満とする結果を得た.これを当てはめると,GJ 1214bの質量は惑星史を通じてほとんど変わらず,GJ 1214bが海王星や天王星と同様に大量の水素を形成時に獲得していた場合には,現在でも水素大気を保持していることになる.しかし,Lammer et al. (2013)の結果を吟味すると,エネルギー律速を仮定した場合の散逸率に比べて数値解が著しく小さい.先行研究の求めた加熱率分布は,EUV 放射が計算領域の下端に達する前に大気にほぼ全て吸収されることを示しているが,大気に吸収される単位時間あたりの総エネルギーは,惑星に入射するEUV エネルギーよりも一桁ほど小さくなっている.おそらく先行研究は放射伝達計算に問題があり,散逸率が過小評価されていると考えられる.
そこで本研究では高い質量保存性とエネルギー保存性を持つ CIP 法と CIP-CSL2 法を用い, 先行研究と同様に水素原子一成分, 球対称一次元を仮定した時間発展非粘性流体方程式の数値モデル (Kuramoto et al., 2013を修正) をGJ 1214b に適用して散逸率の再評価を行い,水素の流体力学的散逸がGJ 1214bに与える影響を考察した.質量フラックスの一様性とエネルギーの保存性を確認の上,Lammer et al. (2013) と同等の条件 (下端温度:475K, 下端数密度:1x1019 m-3, EUV 放射:現在の太陽の470倍) を与えた計算を行ったところ,彼らよりもおよそ6 倍以上もの散逸率が得られた.
本計算で得られた散逸率と恒星年齢に依存した EUV フラックスを惑星形成時から現在まで時間積分した値によると,GJ 1214b の水素の総散逸量は,惑星質量の約 15 % ~ 88 % と見積もることが出来た.このことから,現在までにGJ 1214b が保持していたであろう水素大気はほぼ全て散逸する可能性があることを示唆し,これは観測 (Kreidberg et al., 2014)と整合的な結果である.また惑星形成初期に現在までの総散逸量分の水素大気があったと仮定すると,GJ 1214bの初期質量は現在の 1.15 ? 1.9 惑星質量 (現在の海王星質量の 0.43-0.72 倍)となり,海王星に似た惑星であったと考えられる.