18:15 〜 19:30
[SCG56-P03] 福島第一原子力発電所周辺の強震動とSPGAの関係について
キーワード:原子力発電所, 強震動, SPGA
福島第一原子力発電所の事故を受けて,今後の原子力発電所の安全性を検討するにあたり,先ずは,事故の全体像を解明することが必須であるが,その中には,発電所周辺の強震動がどのように生成されたかの解明も含まれなければならない.東北地方太平洋沖地震の際に観測された強震動のうち,特に震源特性と関連が深いと考えられる震源に近い位置での強震動は,明瞭なパルス(強震動パルス)によって特徴付けられている(野津,2012a;野津他,2012).著者は,宮城県沖から茨城県沖にかけて9つのSPGA(Strong-motion Pulse Generation Area,強震動パルス生成域)からなる震源モデルにより,これらのパルスを含む強震動が説明できることを示している(野津,2012a;野津他,2012;野津,2012b).ただし,これらの震源モデルの作成時においては,福島第一原子力発電所に近いK-NET大熊(FKS007)とKiK-net浪江(FKSH20)の記録は未回収であったため,使用していなかった.その後,防災科学技術研究所の尽力によりこれらの記録が回収・公開されたため,これを利用して,福島第一原子力発電所周辺の強震動とSPGAとの関係を検証した.その結果によると,福島第一原子力発電所周辺の強震動とSPGAの関係について次のように整理できる.まず,14時46分43秒から14時47分26秒にかけて宮城県沖で4つのSPGAが破壊し,特にSPGA4は9つのSPGAの中で最も強い地震波を励起したが,宮城県沖のSPGAから福島第一原子力発電所までかなり距離があったため,これらはさほど強い地震動をもたらさなかった.続いて14時47分57秒から14時48分15秒にかけて福島県沖で3つのSPGA(SPGA5~SPGA7)が破壊した.これらのSPGAは先述のSPGA4ほど強いものでは無かったが,距離が小さかったため,福島第一原子力発電所周辺に比較的強い地震動をもたらした.福島県沖のSPGAの中ではSPGA7が相対的に強かったため,福島第一原子力発電所周辺の強震動の最大振幅はSPGA7の破壊によってもたらされた.14時48分25秒から30秒にかけてはさらに茨城県沖で2つのSPGAが破壊したが,これらは距離が大きいため,福島第一原子力発電所周辺の強震動への寄与は小さかった.
以上の分析からわかることは,東北地方太平洋沖地震の際に福島第一原子力発電所周辺で観測された地震動は,けしてworst case scenarioと呼べるようなものではなかったという点である.東北地方太平洋沖地震の際に最も強い地震波を励起したSPGA4は,震央より西側であったとは言え,仙台市から見ても150kmも沖合であった.福島県沖の陸域に近い場所でもSPGAの破壊は見られたが,それらは相対的に弱いものであった.すなわち,東北地方太平洋沖地震においては,強いSPGAの破壊は比較的沖合で,相対的に弱いSPGAの破壊は陸域の近傍で生じたことになるが,このようなSPGAの配置となったことは幸運な偶然と言うほか無い.なぜなら,SPGA4のような強いSPGAの破壊が比較的沖合で生じ陸域の近傍で生じなかった理由を現代の地震学では説明できないからである.
福島第一原子力発電所の事故を受けて,今後の原子力発電所の安全性を検討するにあたり,東北地方太平洋沖地震の教訓から学ぶことが求められているが,地震動についていえば,東北地方太平洋沖地震において我々が幸運な偶然に恵まれたということがその教訓の最たるものである.原子力発電所のように,一旦事故が起これば国民生活全般を脅かしかねない重要施設の耐震性の検討のために,大規模なプレート境界地震を対象として基準地震動を策定する場合においては,東北地方太平洋沖地震のSPGA4に相当するような強いSPGAの破壊が対象施設の近傍で生じるような条件を考慮することが必要である.別の言い方をすれば,SMGAの中で局所的に応力降下量の高い部分(例えばKurahashi and Irikura, 2013)が対象施設の近傍に存在するケースを考慮すべきである.しかしながら,現時点で原子力規制委員会が作成している審査ガイド(案)(原子力規制委員会,2013)においては,アスペリティ(SMGAに相当)の位置や応力降下量の不確かさには言及されているが,SPGA(もしくはSMGAの中で局所的に応力降下量の高い部分)の位置や応力降下量の不確かさには言及されていない.これでは,上述のような東北地方太平洋沖地震の教訓を反映した審査ガイドであるとは言えない.本稿で述べたような観点からの審査ガイドの改訂が望まれる.
以上の分析からわかることは,東北地方太平洋沖地震の際に福島第一原子力発電所周辺で観測された地震動は,けしてworst case scenarioと呼べるようなものではなかったという点である.東北地方太平洋沖地震の際に最も強い地震波を励起したSPGA4は,震央より西側であったとは言え,仙台市から見ても150kmも沖合であった.福島県沖の陸域に近い場所でもSPGAの破壊は見られたが,それらは相対的に弱いものであった.すなわち,東北地方太平洋沖地震においては,強いSPGAの破壊は比較的沖合で,相対的に弱いSPGAの破壊は陸域の近傍で生じたことになるが,このようなSPGAの配置となったことは幸運な偶然と言うほか無い.なぜなら,SPGA4のような強いSPGAの破壊が比較的沖合で生じ陸域の近傍で生じなかった理由を現代の地震学では説明できないからである.
福島第一原子力発電所の事故を受けて,今後の原子力発電所の安全性を検討するにあたり,東北地方太平洋沖地震の教訓から学ぶことが求められているが,地震動についていえば,東北地方太平洋沖地震において我々が幸運な偶然に恵まれたということがその教訓の最たるものである.原子力発電所のように,一旦事故が起これば国民生活全般を脅かしかねない重要施設の耐震性の検討のために,大規模なプレート境界地震を対象として基準地震動を策定する場合においては,東北地方太平洋沖地震のSPGA4に相当するような強いSPGAの破壊が対象施設の近傍で生じるような条件を考慮することが必要である.別の言い方をすれば,SMGAの中で局所的に応力降下量の高い部分(例えばKurahashi and Irikura, 2013)が対象施設の近傍に存在するケースを考慮すべきである.しかしながら,現時点で原子力規制委員会が作成している審査ガイド(案)(原子力規制委員会,2013)においては,アスペリティ(SMGAに相当)の位置や応力降下量の不確かさには言及されているが,SPGA(もしくはSMGAの中で局所的に応力降下量の高い部分)の位置や応力降下量の不確かさには言及されていない.これでは,上述のような東北地方太平洋沖地震の教訓を反映した審査ガイドであるとは言えない.本稿で述べたような観点からの審査ガイドの改訂が望まれる.