日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE28] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用,地球工学)

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 105 (1F)

コンビーナ:*徳永 朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)、薛 自求(財団法人 地球環境産業技術研究機構)、徂徠 正夫(独立行政法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)

15:00 〜 15:15

[HRE28-16] 産総研におけるCO2地中貯留のための受動的モニタリング技術の研究について

*西 祐司1杉原 光彦1石戸 経士1相馬 宣和1 (1.産総研)

キーワード:CO2 地中貯留, モニタリング, 重力, 自然電位, AE

適切なモニタリングの実施は,圧入したCO2 の挙動の探知,漏洩等の潜在的なリスクの検知,そして地下モデルの改良のために,CCS 事業にとって不可欠である。2 次元もしくは3次元的な物性分布に応答する物理探査手法は圧入したCO2 の挙動を追跡するために有効である。CO2地中貯留における物理探査手法としては,反射法地震探査を代表とする能動的な弾性波探査手法が主に用いられ,Sleipnerを代表として貯留層内に貯留されていくCO2の挙動を的確に高分解能で把握できるモニタリング手法であることを実証している。
しかし,弾性波手法は比較的実施コストの高い手法であることから,これを繰り返し実施し続けることはCCSにとって重い負担となり得る。特に,我が国のように,想定される貯留層が海底下にある場合,さらなる高コストや漁業従事者等との調整も加わり,反射法は頻繁に使用できるモニタリング手法とはいえない。また,観測坑は,その掘削・維持コストに加えて,CO2地中貯留において抗井が潜在的な漏洩経路として考えるべきことを考慮すると,必要最低限に留めることが望ましい。
このため,産総研では,能動的な弾性波探査の実施回数を可能な限り低減することが可能となるような,弾性波探査を補完するモニタリング手法の研究を行ってきている。実施コストの低い受動的モニタリング手法の中から,CO2地中貯留へのモニタリングとしての特性を考慮して重力,比抵抗,自然電位(SP),AE法などの受動的モニタリング手法を中心に,貯留シミュレーションと地球物理ポストプロセッサを組み合わせた数値モデル上での検討に加え,また,我が国に先行してCO2圧入の大規模実証調査を進めている米国テストサイトでのモニタリング試行を進めている。さらに,2014年度からは2016年度から我が国の大規模実証試験が予定されている苫小牧においてベースライン・データの取得を開始した。
数値モデル上でのモニタリング手法の検討では,数値シミュレーションによって求められた地下の温度・圧力・流体組成・飽和度・流速等の分布・変化から,地表における重力,自然電位,電気探査,電磁法探査,反射法,測地等の調査によって得られるデータを計算することによって,流体流動のシミュレーション結果と物理探査結果を定量的に結びつける地球物理学ポストプロセッサを,CO2地中貯留における適切な地球物理学的モニタリング・システムの選択・配置の検討,地下状態の迅速な把握,そして貯留モデルの高精度化と将来予測精度の向上等に利用できるように改良を加え,テストサイト等を参考に作成した数値モデルによりCO2圧入とモニタリングのケース・スタディを実施してきた(石戸ほか, 2015)。
米国テストサイトでのモニタリング試行では,DOE主導の下で米国南西部炭素隔離パートナーシップ(SWP)がテキサス州ファーンズワースにおいて実施する大規模実証調査に参加し,超伝導重力計を用いた高分解能重力モニタリング(杉原ほか,2015),抗井によるGeobattery効果をターゲットとしたSPモニタリング,SWPの坑内地震計アレイを補完する地表観測点によるAE観測などを実施している。また,海底下貯留を目指す我が国と異なり測地的手法が有効な可能性があることから,InSARの使用可能性の検討も実施している(Tanaka et al., 2014)。
苫小牧においては,ベースライン・データ取得としての測定に加え,米国テストサイトでは得られない,我が国のCO2貯留モニタリングにおける課題の把握も目指している。高分解能重力モニタリングについては,大規模実証調査の苫小牧OB-2井に隣接して観測点を設置し,2014年度からデータ取得を開始,可能であれば,2016年度から開始する実証調査においてもモニタリングを実施したいと考えている。また,苫小牧OB-2井の敷地内のT-1井において,2015年度内の予定でSPモニタリングも開始している。

謝辞
本研究は,経済産業省からの委託研究「二酸化炭素回収・貯蔵安全性評価技術開発事業(弾性波探査を補完するCO2 挙動評価技術の開発)」の一部として実施した。また,米国テストサイトにおける実証試験は,米国エネルギー省(DOE) 国立エネルギー技術研究所(NETL)の予算による予算(Award No.DE-FC26-05NT42591)により,SWP(Southwest Partnership on Carbon Sequestration) が実施している。調査の実施には,米国Chaparral Energy社,ユタ大学,ニューメキシコ工科大学,日本CCS調査株式会社,苫小牧市,苫小牧港管理組合などの協力が不可欠であった。記して謝意を表する。