日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT40] 地球惑星科学データ解析の新展開:データ駆動型アプローチ

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 201A (2F)

コンビーナ:*桑谷 立(東北大学大学院環境科学研究科)、駒井 武(東北大学大学院 環境科学研究所)、宮本 英昭(東京大学総合研究博物館)、小池 克明(京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻地殻環境工学講座)、堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、座長:上木 賢太(独立行政法人海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野)、桑谷 立(東北大学大学院環境科学研究科)

09:45 〜 10:00

[MTT40-10] 交換モンテカルロ法を用いた合成単斜輝石の反射スペクトル分解

*洪 鵬1宮本 英昭1永田 賢二2杉田 精司3新原 隆史1Dohm M. James1逸見 良道1岡田 真人2 (1.東京大学 総合研究博物館、2.東京大学 複雑理工学専攻、3.東京大学 地球惑星科学専攻)

反射スペクトル分解はこれまで様々な鉱物に適用され、その組成や結晶構造の推測に役立ってきた。その中でも単斜輝石は固体天体表層に豊富に存在することと、その特徴的なスペクトルの形状から、スペクトル分解において最も重要な鉱物の一つだとみなされている。単斜輝石の可視近赤外反射スペクトルに含まれる吸収帯中心は、FeとCaの量に応じて移動することが知られている。Klima et al. (2011)は人工的に合成した様々な組成を持つ単斜輝石の可視近赤外反射スペクトルを修正ガウス関数モデル(MGM) (Sunshine et al., 1990) を用いて分解した。MGMは反射スペクトル分解において広く用いられている手法だが、そのアルゴリズムで用いられている最急降下法は、局所解に陥りやすいという欠点を持つ。したがって、解析者は初期値を調節しながら何度も計算を繰り返す必要があり、理想的な解が得られたとしても、その解には初期値を調節したことに起因する恣意性が付きまとう。我々はこの局所解問題を解決するため、ベイズ理論に基づく交換モンテカルロ法(Nagata et al., 2012)を用いて、幅広い組成の単斜輝石の反射スペクトル分解を行った。交換モンテカルロ法はマルコフ連鎖モンテカルロ法を改良したものであり、局所解に陥りにくく、初期値依存性も少ないという性質を持つ。そのモデルを、我々はKlima et al. (2011)によって計測された人工的に合成された単斜輝石の可視近赤外反射スペクトルに適用した。スペクトルの波長解像度は5 nmであり、波長範囲は0.3-2.6 μmである。試料は45 μm以下のサイズの粉末であり、典型的なサイズは15-25μmである。31個の単斜輝石の反射スペクトルを用い、Ca, Mg, Feのそれぞれの含有量は8-52%, 0-52%, 3-90%と幅広い組成を含んでいる。解析の結果、(1) 1μm吸収帯はCa量の増加に応じて長波長側に移動する (2) 1μm吸収帯はFe量の増加に応じて短波長側に移動するが、分散は斜方輝石のそれに比べて大きい (3) Ca < 30%の試料については、Caの増加につれて2 μm吸収帯が長波長側に移動するが、Ca > 30%の試料については2 μm吸収帯の中心は2.4 μmでほぼ固定される (4) 普通輝石(Ca < ~20%) の2 μm吸収帯の中心波長はFe量にあまり依存しないが、ピジョン輝石(Ca > ~20%)についてはFe量の増加に応じて2 μm吸収帯の中心波長が長波長側に移動する、ことがわかった。これらの結果はMGMを用いたKlima et al. (2011)の結果と極めて調和的であり、交換モンテカルロ法が伝統的なMGMによる解析と同じ結果を得ることが可能であることを示唆している。また幅広い組成の単斜輝石に対して交換モンテカルロ法が適用できたことは、今後かんらん石や斜方輝石など様々な鉱物を含む反射スペクトルへの応用の第一歩となることを意味する。