日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25] 強震動・地震災害

2015年5月25日(月) 14:45 〜 16:00 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*元木 健太郎(小堀鐸二研究所)、座長:佐藤 智美(清水建設技術研究所)、岩城 麻子(防災科学技術研究所)

15:45 〜 16:00

[SSS25-19] 理論的手法による長周期地震動評価の広帯域化に向けた検討

*前田 宜浩1岩城 麻子1森川 信之1今井 隆太2青井 真1藤原 広行1 (1.防災科学技術研究所、2.みずほ情報総研)

キーワード:長周期地震動, 差分法, 地下構造モデル, マルチスケール不均質

はじめに
我々は、3次元差分法による大規模地震動シミュレーションに基づいた海溝型巨大地震による長周期地震動のハザード評価に関する研究を行っている。これまで、不確実性を考慮して設定した多数の震源モデルや、堆積層やプレートなどが考慮された3次元地下構造モデルを用いた地震動シミュレーションにより、超高層建物や石油タンクなどに影響を及ぼす周期3~20秒程度の長周期地震動を対象とした検討を行ってきている。一方、多数存在するより小規模な構造物への影響を評価するためにはより短周期帯までの地震動評価が必要であった。そのためには、理論的手法による地震動計算を短周期側へ拡張するアプローチと、統計的または経験的手法を取り入れた広帯域地震動計算手法の導入によるアプローチ(岩城・他、本大会)が考えられる。本研究では前者のアプローチに関して、相模トラフの地震を対象として、これまでよりも精緻にモデル化された地下構造、震源モデルを用いて、長周期地震動評価の広帯域化に向けた検討を行う。

地下構造モデル
本研究では、防災科学技術研究所において南関東地域を対象として作成中の浅部・深部統合地盤モデル[例えば、Senna et al.(2013、JDR)]を用いる。浅部・深部統合地盤モデルは、これまで別々にモデル化が行われてきた工学的基盤よりも浅い地盤モデル(浅部地盤構造)と,それよりも深い地盤モデル(深部地盤構造)を統合し、両方の地盤構造の影響を受ける周期帯(周期0.5秒から2秒)における増幅特性などをより適切に評価することで、強震動の予測精度の向上を目指すものである。浅部・深部統合地盤モデルを用いてVs=350m/s以下の速度層(ここではVs=250m/s層と仮定)までが考慮された計算を行い、これまでのVs=500m/sの工学的基盤上での計算結果と比較したところ、低速度層がモデル化された地域では地震動の最大振幅や継続時間が増大する傾向がみられた。また、フーリエスペクトルの比較からは、両者の差異は主として周期2秒よりも短周期帯域において認められた。

震源モデル
これまでの長周期地震動シミュレーションでは特性化震源モデルを用いているため、アスペリティサイズよりも小さなスケールの不均質性が十分に考慮されていない。そこで、マルチスケールの不均質性(関口・吉見,2006,月間地球)を考慮した震源モデルを作成し、その効果について検討した。ここでは、相模トラフで想定されるM8級の地震に対して、破壊開始点やアスペリティ配置を変えた274個のシナリオについて、破壊伝播に対してそれぞれ異なる不均質性を付与した震源モデルを作成した。不均質性を付与した影響は、長周期帯域に比べ短周期帯域において大きくなる傾向がみられた。また、破壊開始点やアスペリティ配置に依存している傾向もみられた。

まとめ
これまで行ってきた長周期地震動シミュレーションを周期1秒程度まで広帯域化する上で、より精緻にモデル化された地下構造モデルや震源モデルを用いる重要性が示唆された。一方で、本研究では、低速度層までを考慮した周期1秒程度までの長周期地震動の計算を差分法により行っているが、これまでよりも格子サイズや時間刻みが小さくなっており、計算に要する時間が増大するとともに、多タイムステップの計算を安定して行うことが難しくなりつつある。長周期地震動評価の広帯域化を図るためには、地下構造モデルや震源モデルのみならず、適切な計算手法についての検討も重要な課題である。

謝辞 本研究は文部科学省の「平成26年度長周期地震動ハザードマップ等支援事業」による。