17:00 〜 17:15
[SCG57-09] 伊豆衝突帯下に沈み込むスラブのジオダイナミクス
キーワード:伊豆衝突帯, フィリピン海スラブ, ジオダイナミクス
フィリピン海プレートは本州の下に沈み込む.しかし,フィリピン海プレートの東縁には伊豆小笠原マリアナ弧が存在するために,フィリピン海プレートの沈み込みに伴う関東周辺のテクトニクスは複雑になっている.南関東の房総半島や三浦半島周辺では付加体が発達する一方,南関東の西部の丹沢山地では伊豆小笠原弧の地殻物質が大規模に衝突付加している(伊豆衝突帯).JpGU2014の発表では,岩石の弾性波速度実験と岩石の鉱物組み合わせの相平衡計算の結果に基づき,伊豆衝突帯直下のスラブ構成岩石を検討したが,様々な問題点が浮かび上がってきたので,JpGU2015の発表では,伊豆衝突帯直下のジオダイナミクスについて改めて検討する.
フィリピン海プレート東縁に分布する伊豆小笠原弧の地殻構成は伊豆衝突帯の地殻構造を理解する上で重要な鍵となる.丹沢山地等に産する深成岩類の弾性波速度測定実験から得られたP 波速度とSuyehiro et al. (1996)の構造探査から得られた北部伊豆小笠原弧のP 波速度構造を比較すると,トーナル岩のP 波速度は伊豆小笠原弧中部地殻のP 波速度と同程度であり,トーナル岩が伊豆小笠原弧中部地殻の主要構成岩石であると推定される.また,丹沢産の角閃石はんれい岩とパキスタン(コヒスタン島弧下部地殻断面)産のガブロノーライトのP 波速度と伊豆小笠原弧で得られたP 波速度を比較すると,下部地殻上層の主要構成岩石として角閃石はんれい岩を,また,下部地殻の主要構成岩石として角閃石輝石はんれい岩やガブロノーライトが推測されてきた.伊豆小笠原弧の構成岩石モデルとSato et al.(2005) の伊豆衝突帯の地殻構造を総合的に解釈すると,伊豆小笠原弧の下部地殻(角閃石はんれい岩等の苦鉄質岩石)は熱いスラブとして本州下に沈み込んでいると推測される.本発表では,丹沢山地のはんれい岩の化学組成を用いてTheriak-Domino の相平衡計算プログラムで鉱物組み合わせと含水鉱物中のH2O量を計算し,伊豆衝突帯直下のジオダイナミクスに関する問題点を議論する.
問題のひとつは,スラブ中における含水鉱物(角閃石等)の安定領域とソリダスの関係である.超高温な地温勾配のスラブの沈み込みの場合,角閃石は30 km 以浅で脱水が完了すると推測される,丹沢山地下において微小地震が沈み込むスラブ内(30km以浅)で発生しており、スラブの脱水反応に伴う脱水脆性化によって説明できるように一見思える.しかし,フィリピン海スラブの地温勾配は火山フロントに位置する伊豆衝突体下で最も高温であると予想されるので,火山フロントに位置する伊豆衝突帯から東西方向に遠ざかるほどフィリピン海スラブの地温勾配は相対的に低くなると推測される.このようなスラブが沈み込む場合,角閃石の脱水が完了する前にスラブは部分融解条件に達するので,沈み込みながらメルトを生成する環境になる.実際には,伊豆衝突帯北部にはそれに相当する火山活動が存在しない.スラブ融解しない程度に地温勾配を仮定すると,スラブ脱水は連続的に進行し,深さ50ー60km以深で角閃石が消失する(zoisiteはなお安定).一般的なスラブ内地震はスラブの脱水反応・脱水脆性化によって説明がなされてきているが,丹沢山地直下で発生している微小地震(30km以浅)は丹沢山地北部や関東山地直下ではほとんど発生していないことから,スラブの脱水脆性化が起因とは考えられない.丹沢山地直下のスラブ内で発生している微小地震の深さはスラブがガーネット安定領域に入る深さに相当するので,沈み込む伊豆弧下部地殻が高密度な含ガーネット岩石(候補:ざくろ石グラニュライトまたはざくろ石角閃岩)に相転移する際に地震が発生してと解釈することが妥当である.一方,含ガーネット岩石に相転移後も脱水が継続すると予想されるにもかかわらず非震性スラブとして沈み込む背景には,スラブが通常の海洋スラブと比較してかなり高温であること,塑性領域に入っていることが関連しているのかもしれない.
フィリピン海プレート東縁に分布する伊豆小笠原弧の地殻構成は伊豆衝突帯の地殻構造を理解する上で重要な鍵となる.丹沢山地等に産する深成岩類の弾性波速度測定実験から得られたP 波速度とSuyehiro et al. (1996)の構造探査から得られた北部伊豆小笠原弧のP 波速度構造を比較すると,トーナル岩のP 波速度は伊豆小笠原弧中部地殻のP 波速度と同程度であり,トーナル岩が伊豆小笠原弧中部地殻の主要構成岩石であると推定される.また,丹沢産の角閃石はんれい岩とパキスタン(コヒスタン島弧下部地殻断面)産のガブロノーライトのP 波速度と伊豆小笠原弧で得られたP 波速度を比較すると,下部地殻上層の主要構成岩石として角閃石はんれい岩を,また,下部地殻の主要構成岩石として角閃石輝石はんれい岩やガブロノーライトが推測されてきた.伊豆小笠原弧の構成岩石モデルとSato et al.(2005) の伊豆衝突帯の地殻構造を総合的に解釈すると,伊豆小笠原弧の下部地殻(角閃石はんれい岩等の苦鉄質岩石)は熱いスラブとして本州下に沈み込んでいると推測される.本発表では,丹沢山地のはんれい岩の化学組成を用いてTheriak-Domino の相平衡計算プログラムで鉱物組み合わせと含水鉱物中のH2O量を計算し,伊豆衝突帯直下のジオダイナミクスに関する問題点を議論する.
問題のひとつは,スラブ中における含水鉱物(角閃石等)の安定領域とソリダスの関係である.超高温な地温勾配のスラブの沈み込みの場合,角閃石は30 km 以浅で脱水が完了すると推測される,丹沢山地下において微小地震が沈み込むスラブ内(30km以浅)で発生しており、スラブの脱水反応に伴う脱水脆性化によって説明できるように一見思える.しかし,フィリピン海スラブの地温勾配は火山フロントに位置する伊豆衝突体下で最も高温であると予想されるので,火山フロントに位置する伊豆衝突帯から東西方向に遠ざかるほどフィリピン海スラブの地温勾配は相対的に低くなると推測される.このようなスラブが沈み込む場合,角閃石の脱水が完了する前にスラブは部分融解条件に達するので,沈み込みながらメルトを生成する環境になる.実際には,伊豆衝突帯北部にはそれに相当する火山活動が存在しない.スラブ融解しない程度に地温勾配を仮定すると,スラブ脱水は連続的に進行し,深さ50ー60km以深で角閃石が消失する(zoisiteはなお安定).一般的なスラブ内地震はスラブの脱水反応・脱水脆性化によって説明がなされてきているが,丹沢山地直下で発生している微小地震(30km以浅)は丹沢山地北部や関東山地直下ではほとんど発生していないことから,スラブの脱水脆性化が起因とは考えられない.丹沢山地直下のスラブ内で発生している微小地震の深さはスラブがガーネット安定領域に入る深さに相当するので,沈み込む伊豆弧下部地殻が高密度な含ガーネット岩石(候補:ざくろ石グラニュライトまたはざくろ石角閃岩)に相転移する際に地震が発生してと解釈することが妥当である.一方,含ガーネット岩石に相転移後も脱水が継続すると予想されるにもかかわらず非震性スラブとして沈み込む背景には,スラブが通常の海洋スラブと比較してかなり高温であること,塑性領域に入っていることが関連しているのかもしれない.