18:15 〜 19:30
[SCG60-P07] 摩擦不安定性に対する脱水効果―石膏を用いたアナログ実験的研究―
キーワード:脱水弱化, 相転移, 含水鉱物, 石膏
沈み込み帯において,水が地震の発生様式を規定しうる,といった研究成果はこれまでに数多くある.例えば,スラブ内での稍深発地震は,沈み込んだスラブの脱水脆性化によって発生し,その震源は上面地震帯を形成する.更に,上面地震帯下限が脱水後の無水鉱物安定域で規定されている可能性がある[1, 2].プレート境界型の浅発地震では,アスペリティの分布がスラブからの水で蛇紋岩化したマントル橄欖岩や異常間隙水で説明できる可能性がある[2, 3].このように,沈み込み帯では含水鉱物や沈み込むスラブによって物理化学的に深部へ水が持ち込まれ,その水が地震発生に関与しているとされている.しかしながら,具体的に水がどのようにミクロスケールの素過程に関与し,マクロな地震現象に影響を及ぼすかについては,未だ解明されていない.
これまでも蛇紋岩[4]をはじめとした様々な含水鉱物で脱水時に強度弱化などの力学的な不安定化が確認されてきたが,実験室条件下で脆性延性遷移および脱水相転移を達成しうる石膏[5, 6]は,含水リソスフェアやスラブのアナログとして有効と考えられる.そこで,本研究では,含水鉱物の脱水化学過程が摩擦挙動やレオロジーに影響を与えうるとの仮説のもと,石膏ガウジの摩擦実験により,含水鉱物の脱水プロセスが地震発生域の摩擦特性やレオロジーに対してどのような効果を与えるのかについて明らかにすることを目的とする.
本研究では,プレカット斑レイ岩ピストンで挟んだ焼石膏ガウジ試料について,封圧10〜200 MPa,室温〜180 ℃下でガス圧試験機による変形実験を行った.室温下では,高圧ほど固着すべりの周期とすべりに伴う応力降下量が増大し,これは沈み込み帯における地震の規模の深度分布を説明する.200 MPa, 70 ℃では,相転移せず,固着すべりを示し,力学強度は増加したのに対し,脱水条件付近と考えられる200 MPa, 110 ℃以上では固着すべりの挙動が衰え,歪弱化し,強度がおよそ0となった.微細組織観察によれば,非脱水条件下では剪断方向に斜交する開口剪断面(R1)が卓越したのに対して,脱水条件下ではクラック数自体の減少とともに剪断方向と平行(Y)もしくは直交(X)方向の剪断面が卓越した.ガウジ粒子の形状定向配列(SPO)に伴って剪断方向と平行に並んだ劈開を最弱面として変形がまかなわれたと考えられる.これらの結果より,周囲の物質(斑レイ岩ピストン)が持つ低い透水性によって脱水による異常間隙水圧が増加し,更にガウジ中の剪断面や劈開が連結することで,岩石の力学強度を著しく低下させたと考えられる.これまでの研究から,脱水後の硬石膏は脱水前の焼石膏の摩擦強度よりも強度が大きいため[7],脱水相転移後の強度の低下は,脱水により生成した物質によるものではなく異常間隙水圧によるものだと考えられる.固着すべりや力学強度を弱めるこういった脱水プロセスが非地震発生帯や安定すべり域の形成に関与している可能性がある.
引用文献: [1] Kita et al. (2006) GRL, 33, L24310. [2] 長谷川ほか(2012)地学雑, 121, 128. [3] Fagereng and Ellis (2009) EPSL, 278, 120. [4] Raleigh and Paterson (1965) JGR, 70, 3965. [5] Brantut et al. (2011) JGR, 116, B01404. [6] Heard and Rubey (1966) GSAB, 77, 741. [7] Shimamoto and Logan (1981) JGR, 86, 2902.
これまでも蛇紋岩[4]をはじめとした様々な含水鉱物で脱水時に強度弱化などの力学的な不安定化が確認されてきたが,実験室条件下で脆性延性遷移および脱水相転移を達成しうる石膏[5, 6]は,含水リソスフェアやスラブのアナログとして有効と考えられる.そこで,本研究では,含水鉱物の脱水化学過程が摩擦挙動やレオロジーに影響を与えうるとの仮説のもと,石膏ガウジの摩擦実験により,含水鉱物の脱水プロセスが地震発生域の摩擦特性やレオロジーに対してどのような効果を与えるのかについて明らかにすることを目的とする.
本研究では,プレカット斑レイ岩ピストンで挟んだ焼石膏ガウジ試料について,封圧10〜200 MPa,室温〜180 ℃下でガス圧試験機による変形実験を行った.室温下では,高圧ほど固着すべりの周期とすべりに伴う応力降下量が増大し,これは沈み込み帯における地震の規模の深度分布を説明する.200 MPa, 70 ℃では,相転移せず,固着すべりを示し,力学強度は増加したのに対し,脱水条件付近と考えられる200 MPa, 110 ℃以上では固着すべりの挙動が衰え,歪弱化し,強度がおよそ0となった.微細組織観察によれば,非脱水条件下では剪断方向に斜交する開口剪断面(R1)が卓越したのに対して,脱水条件下ではクラック数自体の減少とともに剪断方向と平行(Y)もしくは直交(X)方向の剪断面が卓越した.ガウジ粒子の形状定向配列(SPO)に伴って剪断方向と平行に並んだ劈開を最弱面として変形がまかなわれたと考えられる.これらの結果より,周囲の物質(斑レイ岩ピストン)が持つ低い透水性によって脱水による異常間隙水圧が増加し,更にガウジ中の剪断面や劈開が連結することで,岩石の力学強度を著しく低下させたと考えられる.これまでの研究から,脱水後の硬石膏は脱水前の焼石膏の摩擦強度よりも強度が大きいため[7],脱水相転移後の強度の低下は,脱水により生成した物質によるものではなく異常間隙水圧によるものだと考えられる.固着すべりや力学強度を弱めるこういった脱水プロセスが非地震発生帯や安定すべり域の形成に関与している可能性がある.
引用文献: [1] Kita et al. (2006) GRL, 33, L24310. [2] 長谷川ほか(2012)地学雑, 121, 128. [3] Fagereng and Ellis (2009) EPSL, 278, 120. [4] Raleigh and Paterson (1965) JGR, 70, 3965. [5] Brantut et al. (2011) JGR, 116, B01404. [6] Heard and Rubey (1966) GSAB, 77, 741. [7] Shimamoto and Logan (1981) JGR, 86, 2902.