日本地球惑星科学連合2015年大会

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[G-02] 総合的防災教育

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中井 仁(小淵沢総合研究施設)、宮嶋 敏(埼玉県立深谷第一高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)

18:15 〜 19:30

[G02-P07] 地域住民との連携による大学生の「家具等転倒防止ボランティア」とその社会的・教育的効果

*土居 晴洋1小山 拓志1川田 菜穂子1 (1.大分大学)

キーワード:自然災害, ボランティア, フューチャー・アース, ステークホルダー

1.はじめに
 大分大学教育福祉科学部地理学研究室と住居学研究室では,佐伯市鶴見吹浦地区において,自治会と協力し,学生が主体となって,集落における暮らしと防災・減災のあり方を考えるための取り組みを継続的に行っている。2013年度には全世帯を対象とした防災・減災に関する意識調査を実施し,各種自然災害に対する認識の実態や自力で防災・減災対策を行うことが困難な世帯が多く存在することなどが明らかとなった。同地区は大分県南東部の豊後水道に面した沿岸集落であり,発生が危惧される南海トラフ巨大地震では5メートルを超える津波の襲来が想定されている。2014年度は,この意識調査の成果と発災時の迅速な避難経路の確保という同地区の課題を考慮して,地震時に転倒の危険性がある居室内の家具等の固定作業を,自力で防災・減災対策を行うことが困難な世帯を対象として,学生の主体的活動として行うボランティアプログラムを実施した。

2.プログラムの特徴
 本プログラムは先述の通り,高齢や独居などの世帯における学生による家具等固定のボランティア活動であるが,単なる社会貢献活動ではなく,以下の特徴を有している。
 第1は,大分大学の他研究室との連携によって実施したことである。大分大学には残念ながら防災・減災に関わる教育・研究組織は存在しないが,日頃より情報交換を行っている教育福祉科学部技術選修,工学部都市計画研究室と連携することで,自然災害や住宅設計,木工技術等の本プログラムに関わる技術や知識を動員することができた。また,学生の立場では,各研究室での履修内容が防災・減災活動という社会的事象とリンクすると認識できることとなった。
 第2は,ボランティア実施にあたり,参加学生に対して事前及び事後講習を義務づけたことである。4回(5限)の事前・事後講習では,学内教員による防災・減災活動の必要性や吹浦地区における自然災害の可能性と防災・減災意識,大分県防災活動支援センター職員による家具転倒防止対策の手法と留意点に関する講演を行い,幅広く関連知識を習得した。さらに技術選修において金具取り付けなどの実習を行い,家具固定に必要な技能の習得を図った。
 第3は,対象世帯の事前調査(1日)と,その結果に基づく必要な対策の検討(1限),および最終的なボランティア実施(1日)を,研究室横断的なグループ(5班,各班7名程度)によって行ったことである。例えば,事前調査では,世帯の希望確認のための聞き取り調査や,居室の間取りや壁の構造の確認などの作業を行った。これらの作業は各研究室の特性を踏まえて学生自ら役割分担と連携を行っていた。各世帯の対策の検討もこの班で行い,お互いの知恵を出し合いながら検討を進めた。
 第4は,地区住民の協力を得てボランティアを実施したことである。各班に住民の方(1名)が同行し,事前調査と家具等固定作業を共同で行った。学生の立場では,対象世帯だけでなく,地区住民の方から地区に関する様々な情報を得られたこと,一方,地区の立場では,同行した住民を通して,家具固定の必要性や方法等の情報が地域に伝えられた。
 なお,本プログラムを通じて,現代日本の地域的課題の一つである防災・減災対策について,地域の実態を理解するとともに,関連する知識と技能を身に付け,課題解決能力を高めたことから,参加学生に対して大分大学として「プログラム修了証」を交付した。

3.本プログラムの社会的・教育的効果
 地域における自然災害への備えや対応は,都市地域・農村地域を問わず,現代日本の大きな課題の一つである。本プログラムは一つの集落と大学との連携という,小規模な実践ではあるが,国際研究プログラムFuture Earthにおける重要な鍵概念を含んでいることに留意したい。つまり,自然科学,社会科学,工学などの学術分野の垣根をこえた学際的な取り組みであり,学生,大学教員,地域住民というステークホルダーの連携によって実施されたということである。プログラム開始時・終了時における参加学生に対するアンケート調査からは,自然災害に対する知識の獲得や具体的な地域に根ざした防災・減災活動に対する意識の向上が見られた。さらに実施世帯に対する事後アンケートでは,学生に対する謝意とともに,本活動の情報を親族や知人に伝えたことなどが記載されていた。大学教員にとっても,学内の知的資源の活用方法と可能性を認識することができ,本プログラムは各ステークホルダーの立場で,防災・減災に対する意識や活動の持続性につながるものであったといえる。