09:15 〜 09:30
[MIS28-11] 新生代テフラ研究の課題~テフラ情報学tephtoinfomaticsの創出にむけて~
キーワード:テフラ, テフラ編年, 火山, D/Oサイクル, データベース
過去の火山噴火で供給されたテフラは,大気中に拡散し地表に降下して堆積したあと,地層として現在まで保存される.火山の大規模噴火は地質年代上ではほぼ一瞬で終わるイベントであり,遠隔地の地層で同じテフラが発見された場合,そのテフラが堆積したのは同じ時代の当時の地表面であるとみなせる.このような有用性から,テフラは重要な年代指標として考古学,火山学,土壌学,地形学,地史学,古生物学,年代学,防災科学等の地球環境科学の関連諸分野の研究で利用されてきた.近年では,分析装置の長時間自動運転や分析技術の高度化・安定化によって,テフラ(特にテフラ中の火山ガラス)の化学組成データを迅速かつ大量に得られるようになった.微少量試料・微小粒子を単粒子で分析する技術が急速に発展したことにより,例えばグリーンランドの氷床コア試料中に介在するヨーロッパの火山由来のテフラや,北米大陸起源のテフラを同定することが可能になってきた.このような研究は,北半球における気候変動の高精度解析をする上で,同一時間面としてテフラを追跡すべき範囲が半球レベルまで広がったことを意味する.また,テフラの同定対比研究をする立場から見ると,火山ガラスの化学組成を基準に給源火山を特定するために,世界各国のテフラに関するデータとマッチングする必要があるということを示唆する.本発表ではクロノロジーの高精度化に関する研究事例と課題,さらにテフラのデータベース構築に関する諸課題について取り上げる.
まず,テフラ編年の高精度化を目指す取り組みの一環として,海底堆積物コア中のD/Oサイクル様記録をもとに,日本周辺海底堆積物中に挟在する広域テフラを高精度編年に取り組んだ研究事例について紹介する.北西太平洋海域におけるD/Oサイクル様の変動はベーリング海,オホーツク海,日本海,東シナ海などで認められている.このうち,日本列島からの広域テフラの存在が確認され,D/Oサイクル様変動との層位関係を検証が容易なのは日本海とオホーツク海である.日本海では堆積物の明暗パターン,オホーツク海ではアルケノン不飽和度により復元された表層水温変動にD/Oサイクル様の変動が認められる.後期第四紀の日本周辺海域でもっとも広範囲での分布が期待されるのは九州中央部阿蘇山から噴出したAso-4テフラである.Aso-4テフラは,日本海の暗色層層序ではIS21-22間のIS22に近い付近に,オホーツク海の古水温パターンではIS22の最上部に位置する.両海域に共通する広域テフラはAso-4テフラのみであるが,オホーツク海のコアでは屈斜路カルデラ起源のKc-SrテフラがIS5に,Kc-2/3がIS22に,Kc-Hbが酸素同位体ステージ5e-5dに,支笏カルデラ起源のSpfa-1がIS8-9に位置すること,日本海のコアでは鬱陵島起源のU-YmがIS9-10に,白頭山起源のB-JテフラがIS14に位置することが確認されている.海底堆積物コア中のD/Oサイクル様記録とグリーンランド氷床コアの対比によるテフラの高精度編年は発展途上の研究ではあるが,今後さらなる検討を重ねることで,その確立の可能性が高いものであるといえる.そして岩相観察では肉眼で認識できない海洋コア中のマイクロテフラの認定も含めて研究することで,さらに確度を増したテフラ編年研究が可能であると考える.
次に,テフラのデータベース構築についての現状と課題についてふれたい.テフラの特徴を記載したデータ(特に化学組成)をデジタルデータベースとして一元的に集積する必要性は,国内外のテフラ研究者の間で過去15年以上にわたって何度となく話し合われている.個人の研究者でデータベースを公開しているケースもあるが,収集する情報の範囲は研究チーム内で扱う研究対象地域に限定され,作成後に情報を定期的にアップデートすることはほとんどないと推察される.多数の研究者が自由に参加しやすい統合されたデータベースを構築するには,データを精査できるテフラ研究者が常に取り組み,異なる研究機関,分析装置で出した分析値の偏差を補正,検索するための最も鍵になる化学組成情報を選別するための統計的なアプリケーションを導入すること(Similarity Coefficients,判別分析等),データベースセンターを設置する機関の選定,さらにデータベースを公開したあとに恒久的に維持しつつ,新しい情報をアップデートし続けるだけの仕組みを作る必要があると考えられる.方向性としては,例えばバイオインフォマティクス(bioinfomatics;生命情報学)で用いられているゲノム情報集積の仕組みなどが参考になるのではないかと考えている.テフラ研究においてはテフロインフォマティクス(tephroinfomatics;テフラ情報学)と銘打ってもよいかもしれない.
まず,テフラ編年の高精度化を目指す取り組みの一環として,海底堆積物コア中のD/Oサイクル様記録をもとに,日本周辺海底堆積物中に挟在する広域テフラを高精度編年に取り組んだ研究事例について紹介する.北西太平洋海域におけるD/Oサイクル様の変動はベーリング海,オホーツク海,日本海,東シナ海などで認められている.このうち,日本列島からの広域テフラの存在が確認され,D/Oサイクル様変動との層位関係を検証が容易なのは日本海とオホーツク海である.日本海では堆積物の明暗パターン,オホーツク海ではアルケノン不飽和度により復元された表層水温変動にD/Oサイクル様の変動が認められる.後期第四紀の日本周辺海域でもっとも広範囲での分布が期待されるのは九州中央部阿蘇山から噴出したAso-4テフラである.Aso-4テフラは,日本海の暗色層層序ではIS21-22間のIS22に近い付近に,オホーツク海の古水温パターンではIS22の最上部に位置する.両海域に共通する広域テフラはAso-4テフラのみであるが,オホーツク海のコアでは屈斜路カルデラ起源のKc-SrテフラがIS5に,Kc-2/3がIS22に,Kc-Hbが酸素同位体ステージ5e-5dに,支笏カルデラ起源のSpfa-1がIS8-9に位置すること,日本海のコアでは鬱陵島起源のU-YmがIS9-10に,白頭山起源のB-JテフラがIS14に位置することが確認されている.海底堆積物コア中のD/Oサイクル様記録とグリーンランド氷床コアの対比によるテフラの高精度編年は発展途上の研究ではあるが,今後さらなる検討を重ねることで,その確立の可能性が高いものであるといえる.そして岩相観察では肉眼で認識できない海洋コア中のマイクロテフラの認定も含めて研究することで,さらに確度を増したテフラ編年研究が可能であると考える.
次に,テフラのデータベース構築についての現状と課題についてふれたい.テフラの特徴を記載したデータ(特に化学組成)をデジタルデータベースとして一元的に集積する必要性は,国内外のテフラ研究者の間で過去15年以上にわたって何度となく話し合われている.個人の研究者でデータベースを公開しているケースもあるが,収集する情報の範囲は研究チーム内で扱う研究対象地域に限定され,作成後に情報を定期的にアップデートすることはほとんどないと推察される.多数の研究者が自由に参加しやすい統合されたデータベースを構築するには,データを精査できるテフラ研究者が常に取り組み,異なる研究機関,分析装置で出した分析値の偏差を補正,検索するための最も鍵になる化学組成情報を選別するための統計的なアプリケーションを導入すること(Similarity Coefficients,判別分析等),データベースセンターを設置する機関の選定,さらにデータベースを公開したあとに恒久的に維持しつつ,新しい情報をアップデートし続けるだけの仕組みを作る必要があると考えられる.方向性としては,例えばバイオインフォマティクス(bioinfomatics;生命情報学)で用いられているゲノム情報集積の仕組みなどが参考になるのではないかと考えている.テフラ研究においてはテフロインフォマティクス(tephroinfomatics;テフラ情報学)と銘打ってもよいかもしれない.