日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT25] 地球生命史

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 202 (2F)

コンビーナ:*本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、本山 功(山形大学理学部地球環境学科)

14:30 〜 14:45

[BPT25-02] 中期白亜紀海洋無酸素事変時の主な海洋基礎生産者は何か?:海成ケロジェンからの証拠

*安藤 卓人1沢田 健1高嶋 礼詩2西 弘嗣2 (1.北海道大学大学院理学研究院・自然史科学専攻、2.東北大学・総合学術博物館)

キーワード:海洋無酸素事変 (OAEs), ケロジェン, アクリターク, パリノファシス, 熱分解分析, 熱化学分解分析

中期白亜紀海洋無酸素事変(OAE)は白亜紀温暖期における重要なイベントであり,過去の超温暖環境の理解のためにも多くの研究がなされてきた。海洋表層の基礎生産の増大が無酸素化に寄与したと報告されているが,白亜紀の主要な海洋基礎生産者であると考えられている円石藻や渦鞭毛藻の生産はOAE期には減少していたことが微化石記録から示されている。また,2-methyl hopanoidやisorenierataneなどのバイオマーカーを用いた分析から,シアノバクテリアや緑色硫黄細菌の活動が示唆されているが,それらの化合物の検出は層準・地域ともに限定される。したがって,OAE期に海洋でどのような微細藻類が優勢であったのかは未だに決着していない。ケロジェン中のアモルファス有機物 (AOM) や極微小な海生パリノモルフは黒色頁岩の主要な有機質成分であるが有機質微化石分析の際にはサイズ分画の際に除去され,軽視されてきた。本研究では蛍光顕微鏡を用いてAOMや極微小なアクリタークを含めたケロジェンの蛍光顕微鏡観察,熱分解・熱化学分解分析をし,OAE期の海洋基礎生産変動の復元を行なった。
南東フランス・ボコンティアン堆積盆から採集したOAE1a (Goguel), OAE1b (Jacob, Kilian, Paquier), OAE1d (Breistroffer), OAE2 (Thomel) 層準の堆積岩試料からケロジェンを分離した。AOMは蛍光特性からNFA (non-fluorescent AOM), WFA (weakly fluorescent AOM), FA (fluorescent AOM) に区分した。熱分解分析・熱化学分解分析はキュリーポイント熱分解装置を用いた。
OAE1a層準堆積岩中のケロジェンは,主に海生藻類に由来するWFAで構成されており,黒色頁岩層ではWFAの割合がわずかに増加した。また,緑藻類が形成するファイコーマと類似したsphaeromorphが他層準に比べて多く,特に極相期層準で多産することが分かった。緑藻類の繁茂もOAE1a期の海洋無酸素化と関連している可能性が指摘できる。OAE1b層準試料中のケロジェンは陸起源のNFAが主で,極相的なKilian・Paquier層準においては黒色頁岩中でWFAの割合が増大した。OAE1b期には陸源物質の過剰流入が海洋無酸素化を起こした可能性が示されているが,それと同時に海洋基礎生産も高まった可能性を示す結果といえる。一方で,アクリタークはOAE1a層準同様に黒色頁岩中でsphaeromorphがやや増加する傾向にあり,渦鞭毛藻シストと類似したacanthomorphのうち長い突起物を持つタイプ (long-spine type) が特にPaquier層準で多産した。OAE1d, OAE2試料はWFAが高い割合を占め,OAE2層準の黒色頁岩層では特に高い割合であった(80-90%)。OAE2中における活発な生産が示唆される。両層準共に黒色頁岩試料において主要なアクリタークはacanthomorphであった。また,OAE1d層準からのみ両極から突起物が伸びたnetromorphが産出された。OAE2層準では寒冷化と同期したTrough intervalにおいて,WFAの減少と連動してsphaeromorphが増加するのに対しacanthomorphが減少した。熱分解・熱化学分解分析の結果,OAE1a層準試料からは2-methyl hopaneが,OAE1b試料からはイソプレノイドに由来する多量の分枝状アルカンが検出された。これらの結果は遊離態バイオマーカー分析の結果とも調和的である。特にPaquier層準試料のWFA濃集層では特徴的に分枝状アルカンが特徴的に検出され,その割合は遊離態として検出される尾-尾結合イソプレノイドの濃度変動とおよそ相関する。尾-尾結合イソプレノイドは演者らの研究成果から緑藻類などが形成するリコパン骨格からなる巨大分子に由来すると推測されているが,この結果はその仮説を支持する。