日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC28] 雪氷学

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部)、兒玉 裕二(国立極地研究所)

18:15 〜 19:30

[ACC28-P02] 雪中BC濃度定量時における雪解凍温度への依存性

*木名瀬 健1北 和之2近藤 豊3大畑 祥3茂木 信宏3東 久美子4小川 佳美4塩原 匡貴4本山 秀明4林 政彦5原 圭一郎5 (1.茨城大学大学院理工学研究科、2.茨城大学理学部、3.東京大学大学院理学部、4.国立極地研究所、5.福岡大学理学部)

キーワード:積雪, BC, 粒径分布, SP2, 解凍温度

黒色炭素エアロゾル(以下BC)は化石燃料の燃焼やバイオマスバーニングの不完全燃焼時に発生する煤が主なものとされ、大気中で太陽放射を吸収することで強い温暖化効果をもたらす。さらにBCは雪氷面に沈着することで、雪のアルベドを下げ、温暖化に寄与する。積雪に沈着したBCの放射強制力は、IPCC (2013)では0.04(0.02~0.09)(W/m2)と見積もられているが、Flanner et al.(2007)では0.049(0.007~0.12)(W/m2)と見積もられており、不確定は大きい。雪氷面のアルベドの計算は、雪氷表面および内部での、雪粒子とBCなどの含有不純物を考慮した、放射伝達モデルにより求められているが、積雪中に含まれているBCの全重量濃度およびその粒径分布の情報が必要となる。そのため、雪氷中のBC粒径分布を正しく測定することは、BCの気候への影響を定量的に見積もるうえで非常に重要である。
我々のグループは、雪氷中のBC濃度の粒径分布を測定するために雪氷を融解しエアロゾル化して、大気中BCと同様にIncandensence Method(SingleParticleSootPhotometer(SP2)による分析)で検出する。この手法で雪氷中のBCを分析した研究としてはMacConnell et al.(2007)が嚆矢となっているが、まだ新しい手法であるため実験過程における不確定が存在する。不確定要因の一つに、解凍方法の違いによる粒径分布と濃度の変化があげられる。R.E.Brandt et al.(2011)をはじめとする、多くの研究では雪を加熱して解凍時間の短縮をおこなっている。しかし、J.P.Schwarz et al.(2012)では、測定する雪サンプルが経験した温度履歴が粒径分布へ影響を及ぼすことを示唆している。サンプル解凍時における温度及び解凍時間が及ぼす、解凍後のBC粒径分布への影響について実験により詳細に評価した報告は見つからなかった。
本研究では、積雪中BCの粒径分布をより正しく測定するために、雪サンプルの解凍温度が、得られた溶液中のBC重量濃度・粒径分布に有意な影響を与えるか明確にすることを目的とする。
我々は2013年に石川県の白山と長野県の白馬の二地点で採取された雪サンプルをそれぞれウォーターバスを使用して70℃・20℃・5℃で解凍し、解凍温度による違いにより測定されるBC重量濃度や粒径分布に変化が出るか実験した。予備実験ではサンプル間のばらつき評価が問題となったため、あらかじめハンドミキサーで雪質を混合し、均一化したサンプルを小分けして、同条件で三サンプルずつ測定することでサンプルのばらつきを評価できるように留意した。
実験の結果、BC重量濃度はより低温での解凍時の方が高濃度となることがわかった。粒径毎に比較すると、小粒径ほど加熱温度が高いと顕著に低濃度化することがわかった。濃度変化は白山のサンプルでは40.8%、白馬のサンプルでは11%の低濃度化となり、サンプルのばらつきはそれぞれ最大で17.6%、10.1%だったことから有意な変化が得られた。雪中でBCが増加することは考えにくいため、低濃度化はBCのロスあるいは粒径の変化が起こっていると考えてよい。
以上の結果から、雪解凍時に与える温度変化が、測定される重量濃度と粒径分布に影響を与えてしまう可能性があることがわかり、雪サンプル中のBC重量濃度・粒径分布を測定する際には、解凍温度を低くした方がよいことが示された。しかし、低温では加藤に時間を要することから、解凍時間や解凍後の保存時間が粒径分布や濃度に影響しないかについて確認する実験を行う予定である。