日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS22] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*伊藤 正一(京都大学大学院理学研究科)、臼井 寛裕(東京工業大学地球惑星科学科)、瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、木村 眞(茨城大学理学部)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、薮田 ひかる(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、座長:瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、薮田 ひかる(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)

10:15 〜 10:30

[PPS22-05] MAC 88107隕石の微細組織:この隕石は本当に星雲集積岩か

*酒井 碧1留岡 和重1瀬戸 雄介1三宅 亮2 (1.神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)

キーワード:MAC 88107隕石, 星雲集積岩, 炭素質コンドライト, 角礫岩化, 水質変成, コンドリュールリム

MAC 88107隕石は,CM-COグループの中間的な性質を持つungrouped炭素質コンドライトである[1]。一般的な炭素質コンドライトは,コンドリュールなどの粗粒な構成物とそれらの間を埋める細粒なマトリックスからなり,マトリックスは隕石の>30 vol.%を占める。これに対し,MAC 88107隕石はマトリックスを持たず,大部分がコンドリュール,CAI,AOAとそれらを囲むリムからなる。リムは星雲中でコンドリュールの表面に塵が付着して形成されたと一般に考えられており[2],MAC 88107隕石のようにコンドリュール,CAI,AOAとリムのみからなる隕石は,母天体上で角轢化等の作用を受けず,星雲から集積したままの組織を保持する「星雲集積岩」であるとされている[2]。しかし,最近の研究[3,4]で,CV隕石中のコンドリュールのリムについて,水熱変成・角轢化・運搬といった母天体内での過程で形成されたことを示唆する組織が観察された。[3, 4]の説では,リムは前駆コンドライトマトリックスの残留物だと考えられている。
リムが母天体内で形成される可能性が示されたことを受け,本研究では,星雲集積岩とされるMAC 88107隕石の形成過程を再評価することを目的として,詳細な観察・分析を行った。組織観察,組成分析にはSEM-EDS, STEM-EDSを用い,リム中の微小鉱物の同定にはSpring-8のSR-XRDを用いた。
MAC 88107隕石中のコンドリュール,CAI,AOAを囲むリムは,大部分が細粒(<1 μm)の鉱物からなり,所々に粗粒(1-10 μm)のフォルステライト,エンスタタイトの鉱物片とファヤライト-マグネタイト-ヘデンバージャイトの集合体を含んでいる。SR-XRD測定及びSTEM観察から,リムの細粒な部分は主に微小な層状ケイ酸塩を含む非晶質物質からなり,その他に,オリビン,輝石,ペントランダイト,マグネタイトを含むことが分かった。
また,リムの多くに脈(幅~10 μm)があることもMAC 88107隕石の特徴である。脈は粗粒な(>1 μm)マグネタイト,ファヤライト,ヘデンバージャイトからなる。先行研究[1]では,このような脈は,コンドリュール中の不透明鉱物ノジュールが酸化される際の体積膨張に伴う応力の増大で生じたと考えられている。しかし,この説では,不透明鉱物ノジュールを含まないCAIのリムに同様の脈が存在することの説明が難しい。また,現在の岩相が衝撃を受けて生じた割れ目由来だと考えると,隣接する複数のコンドリュール/リムを貫く脈が存在してもよさそうだが,そのような脈は存在しない。これらのことは、脈は,コンドリュール/リムの前駆岩相に衝撃で生じた割れ目に由来する可能性を示唆している。
互いに隣接するリムの間には,粗粒なマグネタイト,ファヤライト,ヘデンバージャイトからなり,リム中の脈と構成鉱物・組織がよく似た層(幅5-30 μm)が存在する。この層はKrot et al.(2000)[1]でも報告されており,インターリムレイヤーと呼ばれている。
また,MAC 88107隕石に複数のコンドリュールを含むクラストが存在することを確認した。クラストは直径150-500 μmの円~楕円形をしており,隣接するコンドリュール,リムと直接あるいはインターリムレイヤーを介して接している。クラスト内のコンドリュールは,リムやインターリムレイヤーを持たない。ほとんどのクラストのマトリックスは,クラスト外のコンドリュールが持つリムと構成鉱物・組織がよく似ている。このことは,コンドリュール/リムが角轢岩化によって形成されたクラストであり,のちに運搬の際に摩耗して丸くなったものである可能性を示している。
以上の結果からMAC 88107隕石は星雲からの集積後,(1)角轢化によるクラストの形成,(2)それらクラストの運搬と摩耗,(3)再集積と固化,の過程を経ていると考えられる。

引用文献
[1] Krot et al. (2000) MAPS 35, 1365?1386. [2] Metzler et al. (1992), GCA 56, 2873?2897. [3] Tomeoka and Ohnishi (2010), GCA 74, 4438?4453. [4] Tomeoka and Ohnishi (2014), GCA 137, 18?34.