日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:黒川 宏之(名古屋大学大学院理学研究科)、松本 侑士(国立天文 天文シミュレーションプロジェクト)

16:45 〜 17:00

[PPS21-23] 生命保有可能系外惑星GJ667Ccの気候モデリング

*成田 一輝1倉本 圭2 (1.北海道大学理学部地球惑星科学科、2.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:生命保有可能系外惑星, GJ667Cc

近年の系外惑星発見数の増加に伴い,数値モデリングを通じ系外惑星のハビタビリティ(生命存在可能性) を考察する研究が行われるようになった(例えばWordsworth et al., 2011;Leconte et al., 2013).地球同様に地表に液体の水を保有しうる系外惑星の中でも,観測可能性の高さの観点から赤色矮星の周りを同期回転する地球型惑星が研究対象として重要である.
こうした背景に鑑み,本研究では地球類似性指数ESI(Schulze-Makuch et al., 2011) が2014年11 月20 日現在で最も高い(PHL, 2012) 系外惑星GJ667Cc を対象に,大気大循環モデルのひとつであるdcpam5(高橋他,2013) を用いた気候シミュレーションを行った.M型星を公転するこの惑星は,その軌道と推定年齢から,潮汐固定作用を受け同期回転,すなわち常に同じ面を中心星に向けていると考えられる.また対照実験として地球設定での計算も行った.これらの結果をもとに,地表面温度と降水量の全球平均値と分布の地球との比較,地表面温度分布や降水量分布と大気循環との照合,全球風化率の推定,夜半球に水が局在化するタイムスケールの推定を行った.これらの項目の検討を通じて,GJ667Cc の取りうる気候を大局的に考察することを試みた.
GJ667Cc 軌道上の中心星放射は,地球軌道上の太陽放射の約90%であり,もしアルベドが等しければこの惑星の平衡温度は約7K 地球より低い.大気量や重力加速度などを,地球の値から質量スケーリングして与えたシミュレーションの結果,GJ667Cc 設定は地球設定に比べて全球平均地表面温度が約40K低く,また年間降水量が約320mm少なかった.降水量,風速,気温の分布をみると,GJ667Cc 設定の昼半球は恒星直下点を中心に高温多雨で,夜半球は高緯度に寒極がありその周囲に微量の降水が分布していた.GJ667Cc 設定に特徴的な大気循環構造として,高緯度に達する昼半球のハドレー循環,極を通る昼夜対流,スーパーローテーション,そして夜半球の寒極を中心とする渦が確認された.GJ667Cc 設定の地表面温度や降水量の分布はこの大気循環構造によりある程度説明できる.GJ667Ccの全球化学風化率(地表の岩石からの陽イオン溶出率) は,平均地表面温度と平均降水量がともに地球よりも低いにも関わらず,地球の約5.8 倍と見積もられた.これは恒星直下点付近の気温が顕著に高く,また降水量も多いため,この領域で大量の風化が生じることによる.風化は温室効果気体である大気中のCO2 を消費するプロセスであるが,供給プロセスである火成活動を質量スケーリングにより地球の3.8 倍と仮定すると消費が供給を上回るため,ウォーカー・フィードバック(Walker et al., 1981) の作用により地表面温度はモデル計算値よりさらに低温になると予想される.昼夜境界付近から夜半球にかけては,
持続的に地表が氷点下になっており,ここに輸送された水分は氷として固定され,惑星表面のH2O の分布が局在化してしまう可能性がある.GJ667Cc に地球スケーリングした総表層H2O 量を仮定し,寒冷域の降雪・降霜フラックスをもとに見積もると,水の局在化に要する時間は約1870 万年と推定された.この推定で考慮しなかった風化との相互作用を勘案すると実際の局在化時間はこれよりも長くなる可能性が高い.
本研究は地球にもっとも似るとされる系外惑星GJ667Cc を例にとり,その気候を理解するために検討すべき内容を項目別に考察した.実際の気候のふるまいは複数の要素が相互に関わって実現されるものである.このモデルを発展させて,物質循環,風化,水の局在化といった要素からなる気候システムの挙動を明らかにし,その長期的安定性の議論を通してGJ667Cc をはじめとする同期回転地球型惑星の気候や大気構造,そしてハビタビリティを考察することが今後の課題である.