日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ45] 地球科学の科学史・科学哲学・科学技術社会論

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 203 (2F)

コンビーナ:*矢島 道子(東京医科歯科大学教養部)、青木 滋之(会津大学文化研究センター)、山田 俊弘(千葉県立船橋高等学校)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:山田 俊弘(千葉県立船橋高等学校)、矢島 道子(東京医科歯科大学教養部)

12:30 〜 12:45

[MZZ45-07] 科学コミュニケーションの科学を考える

*上野 ふき1熊澤 峰夫2久木田 水生3大谷 隆浩3 (1.中京大学、2.東京工業大学、3.名古屋大学)

キーワード:サイエンス・コミュニケーション

近年、民主主義の浸透に加え、情報化社会の実現によって人間社会のあり方は急速に変化した。市民は政治家や専門家に判断を兼ねるのではなく、自ら情報を集め意思決定ができる時代となってきた。この現象に対しては、群生生物のヒトがその命と文化を如何に継承するかを考える、という根源的な課題を設定する事もできる。しかし、より直近の具体的な課題として、資源不足への対応、地球温暖化への対応など、地球科学と社会科学を含めたすべての分野にかかわる「生命にとっての環境の問題」を、われわれ市民(政治家、専門家も含め)が判断し、決断する、という設定もできる。
市民による意思決定のためには、集団による「合意形成」が必要となってくる。その手続きの一つが民主主義である。しかし、その手続きのルール自体を決める合意形成が成立しないことが決して稀でない。例えば、高速道路、リニア新幹線、万博会場の設置、空港の設置、米軍基地の移設、原子力発電所の継続などの身近な例を取り出しても、対立する意見が生じる事は容易に想像でき、問題によっては合意形成がきわめて難しい。
現実の見解対立の多くは利害の対立であり、それは利害に沿ったエビデンス情報に基づいて、その調整と補填というテクニカルな問題に還元される。現代では、それぞれ個別分野の専門家が実務的に対処しているが、統一の方法やシステムは作られていない。そのため、災害対応、環境問題、安全保障問題等の全てに共通している、合意形成が容易でない難しい問題について、その原理問題の本質に切り込む仕事は挑戦的課題である。
これまで、われわれは様々な共同研究を行ってきた過去の経験から、対立・主張し合う者らが合意に至るためには、論理だけではモノゴトの理解を共有できないことが多いという事がわかってきた。エビデンス(データと論理)を突合させて、合意に至っても、その理由はそのエビデンス以外にある場合も稀ではない。そのため、われわれは次のような仮説を立てた。人がモノゴトを理解し判断する背景には、言語表現が困難な要素、例えば、自然・家庭・社会の環境に由来する宗教・道徳・価値観などが介在している。この背景の効果を的確に把握しない限り、合意形成(納得、妥協を含む)を得るシステムは作れない。逆に言えば、環境が近縁であると、合意形成は簡単である。この環境を本研究では、「マインド・クライメート」と呼び、科学的に研究していくべきであると考える。
以上の背景を基に、本研究では、中部大学国際GISセンター 問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点2014年度共同研究(研究課題番号:IDEAS201404)の助成を受け、マインド・クライメートを明らかにするための研究方法についての議論から開始した。2014年8月?12月にかけて、マインド・クライメートの定義、研究の方法論、具体的な研究テーマについて率直な会議を行った。その結果、合意形成の場で黒子・表に見えないリーダー・縁の下の力持ちとしての働きを持つ「ファシリテーター、インタープリター」に必要な能力(議論の仕分け、データの見せ方等)の明確化を行うというテーマを設定するに至った。その後、12月?1月にかけて、原子力発電所に関する内容で対話実験を行った。本発表では、それらの実験過程と結果を報告し、1)マインド・クライメート研究の方法の構築過程から考察しうる事と、2)ファシリテーターの能力明確化の為に行った対話実験の考察と検討結果を発表する。このコミュニケーション問題は一般性の高いものであり、対話の題材を市民の生活に関わるものから異分野の連係研究に置き換えて考える事もできる。

*本研究は、中部大学国際GISセンター 問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点2014年度共同研究(研究課題番号:IDEAS201404)の助成を受けたものです。