日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)

18:15 〜 19:30

[HTT31-P19] 東北地方の河川堆積物の吸着元素と河川水の水質成分の比較検討

古川 智慧1山下 美沙2Kicheol SHIN3、*山下 勝行2中野 孝教3陀安 一郎3 (1.岡山大学理学部、2.岡山大学大学院自然科学研究科、3.総合地球環境学研究所)

キーワード:河川水, 堆積物, 地球化学

1. はじめに
河川堆積物には様々な元素が吸着しており、河川水の溶存元素組成に影響を与えているが、両者の関係を詳細に検討した事例は少ない。岩手県および宮城県で採取した河川堆積物の交換性・吸着性成分の元素組成を測定し、河川水のデータと比較することで、河川の水質形成に及ぼす堆積物の役割を検討した。
2. 実験方法
上記地域の346地点で採取した河川堆積物について、粒径2mm以下にふるい分けした粒子(約10g)に、2mol/Lの酢酸アンモニウム溶液を約50ml加え、2時間反応させた。反応溶液をろ過し、1%硝酸で25倍に希釈したものを吸着体溶液とし、ICP-MS装置(Agilent7500cx)を用いて51元素を定量分析した。各元素について河川水の水質と比較し、分配係数(吸着体/河川水)を求めた。
3. 結果と考察
吸着体溶液に含まれる元素の多くは、河川水の元素濃度と共に増加するが、分配係数は減少する傾向を示した。このことは、堆積物の吸着量に限度(飽和吸着量)があることを示す。いっぽう、陽イオンとして存在する多くの元素の分配係数は1以上であり、とくに重金属元素やレアアースは高い。これに対して、陰イオンとして存在するBやVの分配係数は低く、モノケイ酸として存在するSiはもっとも低い。1価の陽イオンではNaの分配係数がもっとも低くK, Rb,Csの順序で高くなる。また二価陽イオンでもMg, Ca, Sr, Baと原子量と共に分配係数は高くなる。希土類は重金属元素と同様非常に高い分配係数を示すが、軽希土類ほど高く弱いW型テトラド効果が見られる一方で、Ceは正の異常、Euは負の異常を示し、酸化的環境での分配を示している。
本地域の地質は火山岩、深成岩、変成岩、堆積岩と多様な岩石で構成されており、得られた結果は地質体の特異性によるものではない。飽和吸着量や高い分配係数の存在は、河川水の溶存元素組成が河川堆積物との吸着・脱着反応によって強くコントロールされていることを示唆する。いっぽう分配係数が高い元素は、溶存体として存在する可能性が低いことを示唆しており、ろ過するフィルターの孔径の影響を受けやすいことを示唆している。