日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG31] 宇宙科学・探査の将来計画と関連する機器・技術の現状と展望

2015年5月28日(木) 14:15 〜 16:00 202 (2F)

コンビーナ:*平原 聖文(名古屋大学太陽地球環境研究所)、小嶋 浩嗣(京都大学生存圏研究所)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、鈴木 睦(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部)、座長:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、鈴木 睦(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部)

15:00 〜 15:15

[PCG31-13] 成層圏・中間圏の気温・風・微量気体観測のためのサブミリ波リムサウンダ

*落合 啓1鵜沢 佳徳1西堀 俊幸2鈴木 睦2塩谷 雅人3 (1.情報通信研究機構、2.宇宙航空研究開発機構、3.京都大学)

キーワード:中層大気, リム観測, サブミリ波, 機器開発, 将来ミッション, SMILES

下部成層圏から下部熱圏までの広い高度範囲にわたる温度と風、およびH2OやO3その他の微量成分をサブミリ波帯のリムサウンダによって観測することができる。サブミリ波リムサウンダでは、温度と風の計測に適切な酸素等のラインと、大気化学に重要な多種の分子ラインを観測するために、複数の周波数帯が必要であり、高い高度からのラインの放射を高精度に観測するために高周波数分解能の分光が、低い高度からのスペクトル観測と複数のラインを同時に観測するために広帯域の分光が必要である。今後実現しようとするミッションにおいて、周波数帯の数が2-4程度になる受信機構成で、それぞれに対し周波数分解能1 MHz程度で、2-4 GHz程度の幅を分光するバックエンドが想定される。その仕様を、科学要求に対する搭載性、費用等のトレードオフで今後決定して行く予定である本発表では、2009年から2010年に国際宇宙ステーション上でサブミリ波リムサウンディングを行ったJEM/SMILESの後継ミッションとして提案されているSMILES-2について、上記の観測への科学要求を満たすバンド選択の検討結果に基づきそれを実現可能なミッション機器構成として検討している状況を報告する。
リムサウンダの観測精度に直結する受信機の感度は、超伝導ミキサを使用する場合と、常温の半導体を使用する場合とで、現状の技術で1桁以上の差がある。とくに中間圏より高い高度のリム観測では、観測視野の背景は0 Kに近い低温の宇宙からの放射であるので、雑音は受信機自身から生じるものだけになり、超伝導ミキサを使用してこれを小さくすることは重要である。JEM/SMILESでは超伝導ミキサを625, 650 GHz帯で大気観測に使用し、オゾンや塩素化合物等を観測してその有効性を実証した。JEM/SMILES受信機のシステム雑音温度(単側波帯)は297 Kであり、当時の常温ミキサによる受信機に比べ1/10以下の雑音であった。JEM/SMILESでは、国際宇宙ステーション(ISS)における電波環境の影響を最小限にするため受信帯域(中間周波数帯)を安全な幅に取ったこと、冷凍機への負荷が小さい安全な設計とするために受信機を2系統だけにしたこと等のために、限られた数の分子の観測しか実現できず、気温を広範囲で推定するための酸素のラインや、大気輸送のトレーサ物質等を測ることができなかった。提案するミッションでは、広帯域の中間周波帯域を利用することで受信機系統数を減らすことや、サブミリ波帯の周波数分離等の回路設計の工夫で冷却ステージ上の重量軽減や熱流入を小さくする設計を行い、多周波広帯域の受信機をより軽量化した冷凍機の上に実現し、観測要求として挙げられている分子をできるだけ受信帯域内に入れるようにする。側波帯分離(または2SB化)を導波管回路等で行うこと等により、JEM/SMILESよりもサブミリ波光学系を小型化することでの軽量化も図る。アンテナは、JEM/SMILESのような仰角(俯角)を走査できるオフセットカセグレンで、口径は衛星搭載性によるが高度分解能2 km程度のリム観測ができるようにしたいと考えている。アンテナの方位角は衛星の軌道の検討とともに、観測緯度範囲と風速の観測ベクトル方向を考慮して決める予定で、さらに、水平風のベクトルを導出できるように2方向の観測の実現性も検討する。リムサウンダの較正方法は、JEM/SMILESの方法を基本的に踏襲することを想定している。JEM/SMILESの受信輝度温度較正の基準とした常温較正源は機能として成功した機器のひとつであり、これと同様のものを多周波で使用できることの確認も予定している。
このようなミッション機器を総重量200 kg程度で実現することを目標とする。JEM/SMILESの重量は476 kgであったが、ISS曝露部搭載のための制約による重量増のあったことも考慮すれば、軽量化で200 kg程度のミッション機器を実現するのは不可能ではない。超伝導ミキサに必須な冷凍機の寿命は3年程度であることから、長期間の観測を確実にするために、並列して常温動作するミキサを搭載することも検討する。また、早期の実現を図るために、超伝導受信機を使わない常温ミキサだけのさらに小型軽量のミッションの設計検討も併せて進めていく予定である。