日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG35] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2015年5月27日(水) 11:00 〜 12:45 105 (1F)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、池田 昌之(静岡大学)、座長:清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)

12:00 〜 12:15

[HCG35-11] 高濃度混濁流の平衡条件

*成瀬 元1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:混濁流, タービダイト, 干渉沈降, 浮遊砂, 乱流

本研究は,高濃度混濁流が形成される条件ならびに流れの特徴を理論的に検討する.一般に,津波や混濁流のような高速の流れであっても,一方向流の浮遊砂濃度は数%を超えることができない.これは,浮遊砂の存在が流れの中に密度勾配を作り,この密度勾配が流れの乱流を抑制するためである.乱流渦が抑制されると,底面近傍の浮遊砂が流れ上部へ拡散することが無くなり,結果として流れ全体が高濃度化することが妨げられるのである.
 しかしながら,本研究は,理論的には30%程度の高濃度の流れが形成される可能性があることを明らかにした.このような高濃度浮遊砂平衡条件は,干渉沈降効果によって粒子の沈降速度が低下することにより生じる.非常に高い乱流運動エネルギーおよび高い初期浮遊砂濃度を流れに与えると,堆積物の底面からの連行と干渉沈降による沈降速度の低下がポジティブ・フィードバックを引き起こし,流れは30%程度の高濃度で堆積物連行・沈降量が釣り合う平衡条件に達する.このような平衡条件に達するためには,(1)粒径が小さいこと(<200μm),(2)初期濃度が高いこと(> 20%),(3)流速が速いこと(>5 m/s)などが必要条件となる.
 従来,混濁流には高濃度のものと低濃度のものがあると想定されてきたが,なぜ2つのタイプが存在し,それぞれどのような条件で発生するのかについては理解されていなかった.本研究は,両者の違いが初期条件に依存していることを明らかにする.津波起源混濁流のような低濃度条件から発生した流れの場合,混濁流はいくら加速しても低濃度条件にとどまったまま流れ続ける.一方,土石流から発生した混濁流の場合,初期濃度は50%を超えると想定され,発生条件によっては高濃度のまま流下し続けることが可能である.
 一般に,地層中の高濃度混濁流堆積物は,粗粒かつトップハット型層厚分布を持つと考えられてきた.粗粒であることは本研究の結果と矛盾するようだが,地層中に含まれる粗粒な粒子がベッドロードであると考えると,この矛盾は解消される.高濃度流は非常に高い底面せん断応力を持つため,たとえ浮遊砂の粒度が150μm程度であったとしても,中礫以上のサイズの粒子をベッドロードで運搬することは可能である.一方,トップハット型層厚分布は,流れの浮遊砂濃度が高濃度平衡条件から低濃度平衡条件へ移り変わる際に形成されたと考えることで,解釈が可能である.すなわち,本研究の成果は,地層中にみられるタービダイトを理解するための基礎として活用することができる.今後,タービダイトの数値インバージョンを行う際にも,干渉沈降や浮遊砂の乱流抑制効果は重要な要素となっていくだろう.