日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 変動帯の構造・進化とダイナミクス

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 国際会議室 (2F)

コンビーナ:*竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、佐藤 比呂志(東京大学地震研究所地震予知研究センター)、尾鼻 浩一郎(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、加藤 愛太郎(名古屋大学大学院環境学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、佐藤 活志(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、小平 秀一(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、石山 達也(東京大学地震研究所)、松原 誠(防災科学技術研究所)、池田 安隆(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:山崎 雅(産業技術総合研究所)

09:45 〜 10:00

[SCG57-13] 2008年岩手宮城内陸地震の震源域における地震波速度構造と断層破壊挙動

*青柳 恭平1木村 治夫1阿部 信太郎2 (1.電中研、2.産総研)

キーワード:岩手宮城内陸地震, 地震波速度構造, 地震発生層, 断層破壊挙動

奥羽脊梁山地は東北日本弧の中軸をなす東西圧縮の歪み集中帯であり,脊梁山地と両側にある平野との境界にはそれぞれ南北走向の活断層帯が認められる。しかし,一連のように見える断層帯でも,活動性に部分的な差異があり,地震時の破壊区間はしばしば制限される。我々は,断層破壊の規制要因が地殻構造にある可能性を想定し,稠密微小地震観測に基づく地震波トモグラフィ解析から,速度構造と既往地震の破壊域端部との関係を検討してきた(青柳・木村,2014JpGU,青柳ほか,2014地震学会)。本発表では,特に岩手宮城内陸地震の震源域に着目して,速度構造と断層挙動との関係を議論する。なお,観測と解析の概要については,上記2つの予稿をご参照頂きたい。

<震源域周辺の速度構造>
震源域周辺の地震発生層における速度構造の特徴は,栗駒山の西部から南部にかけて密集するカルデラ群(三途川,鬼首,鳴子カルデラなど)の分布に対応して,顕著な低Vp/Vs領域が認められることである。こうした特徴は,Nakajima and Hasegawa(2003)がすでに報告しており,彼らは熱水など水蒸気に富んだ構造であることを推定している。一方,その北東側の領域には,高Vp/Vs領域が認められる。両者の境界はWNW-ESE方向であり,秋田県湯沢市から栗駒山の数km北側を通過し,岩手・宮城県境に達する。これより北東側の高Vp/Vs領域の中では唯一,栗駒山の東部から北北東に向かって低Vp/Vs領域が存在しており,余震はこの低Vp/Vs領域に卓越して発生している。この低Vp/Vs領域の北東縁は,北上低地西縁断層帯南部の分布域に対応する高Vp/Vs領域に接しており,震源域の北端部は,この速度境界と一致している。

<地震発生層の速度分布>
地震発生層の速度分布を明らかにするため,個々の震源位置での地震波速度のヒストグラムを調べた(N=1101)。地震発生層の速度分布の上下限10%ずつを除く大半の部分は,Vpが5.8~6.15km/s,Vsが3.45~3.7km/s,Vp/Vs比が1.64~1.70に分布する。地震発生層はいわゆるVp~6km/s層に対応しており,特にVp/Vs比が1.73よりも顕著に小さいことが特徴である。高圧下で測定された岩石速度(Christensen,1996)と比較すると,この地域における地震発生層は,花崗岩類から構成されている可能性が高い。

<地震発生深度の変化>
震源域の地震発生層の深さ分布を明らかにするために,個々の震源の深さのヒストグラムを調べた。上位5%を除いた深さの上限(いわゆるD5)は2.9km,下位5%を除いた深さの下限(D95)は9.0kmである。この値は,同じ解析で得られた陸羽地震の震源域の深さ分布(D5が3.3km,D95が11.7km)と比較して,特に下限の深さが浅くなっている。さらに,上述した栗駒山北方の構造境界の南側のみに限定すると,D5が2.8km,D95が7.8kmであり,下限はより顕著に浅くなる。このような震源域の走向に沿う地震発生層の下限深度の変化は岡田ほか(2008)が報告しており,鬼首や鳴子などの火山に対応した高温領域が地下浅部に達するために,脆性-延性境界が浅くなっていると解釈されている。

<構造変化と断層破壊挙動>
前述したWNW-ESE方向の顕著な速度境界では,余震分布の深さだけでなく,水平方向にも左ステップする変化が認められる。布原ほか(2010)は,この境界を東北地方にいくつか見られるWNW-ESE系の断層のひとつであると指摘した。この系列の断層は,日本海拡大時の反時計廻りの回転運動に伴って形成された差別的横ずれ断層と推定されており,黒鉱の分布などに10~20kmの左横ずれが認められている。また,青柳ほか(2012)は,震源域を南北に縦断する深部反射法地震探査の結果,この位置に構造的な急変部を認めている。これより北側では地表から地下5km程度までは反射イベントが卓越しているが,南側では地下2km以深には反射イベントがほとんど見られない。地震発生層の深度変化は,この構造的な変化とよく対応している。したがって,そこには何らかの大きな構造境界が存在する可能性が高い。ただし,地震時の破壊はこの構造境界で停止されず,その南北に広がった。その原因は,南北の地質体が横ずれ転移した結果,地震発生層(低Vp/Vs領域)が連続的になっているためだと解釈される。一方で,震源域の北端部は,高Vp/Vs領域に接している。この速度境界部は平泉付近から横手市付近まで断続的に認められ,やはりNNW-SSE走向の左横ずれ断層を見ている可能性が高い(青柳ほか,2014)。地震時の破壊が北端部で停止した原因は,地震発生層(低Vp/Vs領域)が,この境界部で不連続になっているためと解釈される。