18:15 〜 19:30
[HTT31-P10] 地化学特性から推定された京都盆地の地下水流動状態
キーワード:地下水流動, 地球化学, 主成分分析, 同位体
地下水は一般に表流水よりも水質が良好であり,その資源量も豊富であることから,多岐の用途で使用されている貴重な水資源である.表流水に比べて地下水の流速は緩慢で,滞留時間が長いことから,一度汚染や水位低下等が生じると元の状態に回復するまでに極めて長い時間を要する.地下水資源の質と量を良好な状態に維持し,持続的に利用するために,適切な地下水利用を可能とする管理方法が必要となっている.本研究では,地下水の流動・流出状態及び表流水との交流状態を把握し,地下水流動の高精度な将来予測を可能とする水文地質モデルを作成することを最終目的としており,京都盆地をモデルケースとして研究を進めている.
本年度は,桂川,宇治川,木津川流域の19地点の井戸において,原位置でpH,酸化還元電位(ORP),電気伝導度(EC),溶存酸素濃度(DO)を測定した。また,地下水試料を採取し,文田ほか(2014)により京都盆地北東部の鴨川・高野川流域の井戸で採取された28試料とあわせて主要溶存イオン濃度,水素酸素同位体比,ストロンチウム同位体比などを分析し,地下水流動状態を推定した.
分析結果より,主要溶存イオン濃度は,京都盆地北部から南部にかけて増加する傾向が見られた.主要溶存イオン濃度とpH,ORP,EC,DO,水素酸素同位体比を指標として主成分分析を適用した結果,第一主成分はORP,DO,硫酸イオンを除いて他の成分が正の負荷量を取り,第二主成分は硫酸イオン,カリウムイオン,ECが正の負荷量,pHが負の負荷量を取ることが明らかとなった。また,第一主成分と第二主成分の散布図において,各河川流域の井戸は異なる領域に分布した.これは,各流域における地質と水質形成メカニズムの違いを反映しているものと推測される.鴨川流域において,盆地内には第四系が分布するが,原流域である盆地周辺の山地では,北部には中生代ジュラ紀の付加体で,主に砂岩,頁岩,チャートなどからなる丹波層群が,東部には花崗岩体が分布し,水質は流動性の高い地下水で一般的なCa-HCO3型であり,地下水は河川水と類似した特性を持つ.また,流域南東部の丘陵には大阪層群が露出しており,近傍の井戸では硫酸イオン濃度が高い.桂川流域の上流にも丹波層群が分布しており,塩化物イオン濃度,ナトリウムイオン濃度が高い.宇治川,木津川流域において巨椋池周辺は干拓地であるほか,沖積層が優勢であり,滞留的な環境の地下水に多いNa-HCO3型の水質であった.
鴨川,高野川流域では文田ほか(2014)により比較的多くの井戸の調査が行われており,鴨川と高野川の合流点付近で河川水に地下水が35%程度混合していることや,合流点下流では鴨川周辺に伏流水が分布していることが指摘されている.そこで,鴨川,高野川流域で採取された地下水試料を中心にストロンチウム同位体比の分析を行った。その結果,ストロンチウム同位体比は,調査を行った中で最も北側に位置する井戸で最大で0.715であり,花崗岩体に近い東側の井戸では0.712程度となった.これらの値は,それぞれ丹波層群分布域と花崗岩分布域を流下する河川水のストロンチウム同位体比と同程度であり(和田・神松,2010),地下水の涵養域と流動経路の違いを反映しているものと考えられる.また,下流域の地下水ではストロンチウム同位体比が0.708~0.709程度となった.これらの井戸は,文田ほか(2014)により伏流水の存在が指摘された領域より更に南部に位置している.ストロンチウム同位体比が小さい井戸の分布域では,東部の山地より地下水が流入していると考えられており(京都新聞社,1983),ストロンチウム同位体比により鴨川流域北側の地下水とは起源が異なる地下水が分布していることが裏付けられた.
今後は杉村ほか(2013)の水文地質モデルを基礎モデルとして地下水流動と物質移行に関するシミュレーションを行い,地下水流動状態と環境トレーサーの空間分布を推定する。シミュレーション結果を本研究の結果と比較することでモデルの検証,改良を進めていく予定である.
引用文献
文田了介・柏谷公希・小池克明・多田洋平・谷口真人・中野考教(2014)マルチ環境トレーサー分析とクリギングにより推定された河川水と地下水の交流状態,日本情報地質学会 Vol.25,No2,pp.062-063.
杉村美緒 (2013) 京都盆地の水理地質構造の三次元モデリング,京都大学工学研究科修士論文.
和田英太郎・神松幸弘(2010)安定同位体というメガネ,昭和堂,p.74.
京都新聞社(1983)京都いのちの水,京都新聞社,p.57.
キーワード:地下水流動,地球化学,主成分分析,同位体
本年度は,桂川,宇治川,木津川流域の19地点の井戸において,原位置でpH,酸化還元電位(ORP),電気伝導度(EC),溶存酸素濃度(DO)を測定した。また,地下水試料を採取し,文田ほか(2014)により京都盆地北東部の鴨川・高野川流域の井戸で採取された28試料とあわせて主要溶存イオン濃度,水素酸素同位体比,ストロンチウム同位体比などを分析し,地下水流動状態を推定した.
分析結果より,主要溶存イオン濃度は,京都盆地北部から南部にかけて増加する傾向が見られた.主要溶存イオン濃度とpH,ORP,EC,DO,水素酸素同位体比を指標として主成分分析を適用した結果,第一主成分はORP,DO,硫酸イオンを除いて他の成分が正の負荷量を取り,第二主成分は硫酸イオン,カリウムイオン,ECが正の負荷量,pHが負の負荷量を取ることが明らかとなった。また,第一主成分と第二主成分の散布図において,各河川流域の井戸は異なる領域に分布した.これは,各流域における地質と水質形成メカニズムの違いを反映しているものと推測される.鴨川流域において,盆地内には第四系が分布するが,原流域である盆地周辺の山地では,北部には中生代ジュラ紀の付加体で,主に砂岩,頁岩,チャートなどからなる丹波層群が,東部には花崗岩体が分布し,水質は流動性の高い地下水で一般的なCa-HCO3型であり,地下水は河川水と類似した特性を持つ.また,流域南東部の丘陵には大阪層群が露出しており,近傍の井戸では硫酸イオン濃度が高い.桂川流域の上流にも丹波層群が分布しており,塩化物イオン濃度,ナトリウムイオン濃度が高い.宇治川,木津川流域において巨椋池周辺は干拓地であるほか,沖積層が優勢であり,滞留的な環境の地下水に多いNa-HCO3型の水質であった.
鴨川,高野川流域では文田ほか(2014)により比較的多くの井戸の調査が行われており,鴨川と高野川の合流点付近で河川水に地下水が35%程度混合していることや,合流点下流では鴨川周辺に伏流水が分布していることが指摘されている.そこで,鴨川,高野川流域で採取された地下水試料を中心にストロンチウム同位体比の分析を行った。その結果,ストロンチウム同位体比は,調査を行った中で最も北側に位置する井戸で最大で0.715であり,花崗岩体に近い東側の井戸では0.712程度となった.これらの値は,それぞれ丹波層群分布域と花崗岩分布域を流下する河川水のストロンチウム同位体比と同程度であり(和田・神松,2010),地下水の涵養域と流動経路の違いを反映しているものと考えられる.また,下流域の地下水ではストロンチウム同位体比が0.708~0.709程度となった.これらの井戸は,文田ほか(2014)により伏流水の存在が指摘された領域より更に南部に位置している.ストロンチウム同位体比が小さい井戸の分布域では,東部の山地より地下水が流入していると考えられており(京都新聞社,1983),ストロンチウム同位体比により鴨川流域北側の地下水とは起源が異なる地下水が分布していることが裏付けられた.
今後は杉村ほか(2013)の水文地質モデルを基礎モデルとして地下水流動と物質移行に関するシミュレーションを行い,地下水流動状態と環境トレーサーの空間分布を推定する。シミュレーション結果を本研究の結果と比較することでモデルの検証,改良を進めていく予定である.
引用文献
文田了介・柏谷公希・小池克明・多田洋平・谷口真人・中野考教(2014)マルチ環境トレーサー分析とクリギングにより推定された河川水と地下水の交流状態,日本情報地質学会 Vol.25,No2,pp.062-063.
杉村美緒 (2013) 京都盆地の水理地質構造の三次元モデリング,京都大学工学研究科修士論文.
和田英太郎・神松幸弘(2010)安定同位体というメガネ,昭和堂,p.74.
京都新聞社(1983)京都いのちの水,京都新聞社,p.57.
キーワード:地下水流動,地球化学,主成分分析,同位体