18:15 〜 19:30
[BCG28-P06] 放射光X線回折法と赤外線分光法を用いた珪藻被殻の分子構造の研究
キーワード:珪藻, 分子構造, X線回折, 赤外線吸収分析
1.はじめに
珪藻は,海洋,湖水,河川に生息し,地球全体の光合成の4分の1を担っている(Nelson, et al. 1995).それらは選択的に金属イオンを取り込むことによって,地球表層の元素移動に多大な影響を及ぼしていると考えられている(Morel and Price 2003).複雑な表面組織を持つ珪藻は,被殻に元素を吸着する性質を持つが,その吸着特性は表面被殻の構造に依存する.さらに,死滅した珪藻の被殻が保存されるかどうかはその被殻の分子構造によって決定される.しかしながら,その珪藻被殻の表面構造についてはまだあまりよく解明されていない.Kamatani (1974)は赤外線分光法によって珪藻被殻の構造研究を行っているが,種ごとの分析は行っていない.最近ではGelabert et al. (2004)が,珪藻を種ごとに分類し赤外線分光法と小角散乱法を用いて構造を研究しているが,試料の処理過程に問題があり,構造の一部が損なわれている可能性がある.そこで本研究は,単離培養した珪藻株から構造を損なうことなく採集した珪藻被殻に対して,赤外線分光法 ,X線回折法を用いて分子構造を解明することを目的に行なった.
2.実験方法
1)珪藻の採取と培養
試料は,滋賀県長浜市余呉湖と千葉県木更津市小櫃川河口干潟,さらに,タイ北部から採取した珪藻を使用した.採取した珪藻は,f/2培地に移動させ25℃に管理された室内で赤色及び緑色LEDを組み合わせた光の下で培養した.適度に試料が増殖したところで,種ごとに別々のシャーレに単離し,同様の条件下で増殖させた.その結果,19種類の単離に成功し,そのうち3種の培養に成功した.
2)試料の処理
実験に十分な量まで増殖させた珪藻はメンブランフィルターで濾し,遠心分離とアセトンによる処理で塩分と有機質を取り除いた.その後,オーブン内で50℃で3日間乾燥させ水分を完全に蒸発させた.
3)測定
放射光X線回折測定は高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光研究施PF-BL8Bで行った.
3.結果
タイ北部で採取したGomphonema sp.はくさび型,滋賀県余呉湖から採取したNitzschia cf.Frustrumは紡錘形をしており,千葉県小櫃川から採取したCylindrotheca sp.は細長く伸長した針状で中心部のみ被殻が薄く紡錘形が捩れた形が特徴的である.SEM観察からGomphonema sp.とNitzschia cf.Frustrumはその形態を保持したまま回収することに成功した.一方,Cylindrocheca sp.は遠心分離によってその形態大部分は壊れたが,両端の針状部分は形態がそのまま保持されていた.放射光X線回折実験の結果,Gomphonema sp.とNitzschia cf.Frustrumは非晶質シリカとほぼ同じブロードな回折パターンを示した.しかしCylindrocheca sp.は他の2種とは異なり,d = 3.920, 2.603, 1.545Åの位置に鋭い回折ピークと複数の弱いピークを示した.赤外線吸収スペクトル解析の結果も同じくGomphonema sp.とNitzschia cf.Frustrumは非晶質シリカとよく似た吸収スペクトルを示し,X線回折パターンの結果と良い一致を示した. 一方,Cylindrotheca sp.はopal-CTに類似したスペクトルを示した.
4.考察
Gomphonema sp. とNitzschia cf.Frustrumは,被殻の分子構造が全て非晶質シリカによって構築されていることがわかった.Cylindrotheca sp.は中心部分は非晶質シリカで構築されていると考えられる.一方で,形態が強固に保持されている針状部分が硬い結晶性物質によって形成されていると推察される.
本研究によって,珪藻の被殻は種ごとに異なる分子構造を持つ可能性が示された.
珪藻は,海洋,湖水,河川に生息し,地球全体の光合成の4分の1を担っている(Nelson, et al. 1995).それらは選択的に金属イオンを取り込むことによって,地球表層の元素移動に多大な影響を及ぼしていると考えられている(Morel and Price 2003).複雑な表面組織を持つ珪藻は,被殻に元素を吸着する性質を持つが,その吸着特性は表面被殻の構造に依存する.さらに,死滅した珪藻の被殻が保存されるかどうかはその被殻の分子構造によって決定される.しかしながら,その珪藻被殻の表面構造についてはまだあまりよく解明されていない.Kamatani (1974)は赤外線分光法によって珪藻被殻の構造研究を行っているが,種ごとの分析は行っていない.最近ではGelabert et al. (2004)が,珪藻を種ごとに分類し赤外線分光法と小角散乱法を用いて構造を研究しているが,試料の処理過程に問題があり,構造の一部が損なわれている可能性がある.そこで本研究は,単離培養した珪藻株から構造を損なうことなく採集した珪藻被殻に対して,赤外線分光法 ,X線回折法を用いて分子構造を解明することを目的に行なった.
2.実験方法
1)珪藻の採取と培養
試料は,滋賀県長浜市余呉湖と千葉県木更津市小櫃川河口干潟,さらに,タイ北部から採取した珪藻を使用した.採取した珪藻は,f/2培地に移動させ25℃に管理された室内で赤色及び緑色LEDを組み合わせた光の下で培養した.適度に試料が増殖したところで,種ごとに別々のシャーレに単離し,同様の条件下で増殖させた.その結果,19種類の単離に成功し,そのうち3種の培養に成功した.
2)試料の処理
実験に十分な量まで増殖させた珪藻はメンブランフィルターで濾し,遠心分離とアセトンによる処理で塩分と有機質を取り除いた.その後,オーブン内で50℃で3日間乾燥させ水分を完全に蒸発させた.
3)測定
放射光X線回折測定は高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光研究施PF-BL8Bで行った.
3.結果
タイ北部で採取したGomphonema sp.はくさび型,滋賀県余呉湖から採取したNitzschia cf.Frustrumは紡錘形をしており,千葉県小櫃川から採取したCylindrotheca sp.は細長く伸長した針状で中心部のみ被殻が薄く紡錘形が捩れた形が特徴的である.SEM観察からGomphonema sp.とNitzschia cf.Frustrumはその形態を保持したまま回収することに成功した.一方,Cylindrocheca sp.は遠心分離によってその形態大部分は壊れたが,両端の針状部分は形態がそのまま保持されていた.放射光X線回折実験の結果,Gomphonema sp.とNitzschia cf.Frustrumは非晶質シリカとほぼ同じブロードな回折パターンを示した.しかしCylindrocheca sp.は他の2種とは異なり,d = 3.920, 2.603, 1.545Åの位置に鋭い回折ピークと複数の弱いピークを示した.赤外線吸収スペクトル解析の結果も同じくGomphonema sp.とNitzschia cf.Frustrumは非晶質シリカとよく似た吸収スペクトルを示し,X線回折パターンの結果と良い一致を示した. 一方,Cylindrotheca sp.はopal-CTに類似したスペクトルを示した.
4.考察
Gomphonema sp. とNitzschia cf.Frustrumは,被殻の分子構造が全て非晶質シリカによって構築されていることがわかった.Cylindrotheca sp.は中心部分は非晶質シリカで構築されていると考えられる.一方で,形態が強固に保持されている針状部分が硬い結晶性物質によって形成されていると推察される.
本研究によって,珪藻の被殻は種ごとに異なる分子構造を持つ可能性が示された.