日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 原子力と地球惑星科学

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(独立行政法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)

18:15 〜 19:30

[HCG34-P02] 3Dレーザースキャナーを用いた山地森林の土砂生産量と放射性セシウム流出量の推定

*渡辺 貴善1大山 卓也1石井 康雄1新里 忠史1阿部 寛信1三田地 勝昭1佐々木 祥人1北村 哲浩1 (1.日本原子力研究開発機構)

キーワード:F-TRACEプロジェクト, 福島第一原子力発電所事故, 3Dレーザースキャナー, 侵食深

福島県の約70%を占める森林については,人の生活圏の周辺では放射性セシウムによる環境汚染への対策等が進められているものの,大部分の森林では放射性セシウムが未だ留まったままの状況にあると考えられる.このため,数年から数十年にわたる生活圏での被ばく評価においては,森林から生活圏へと至る放射性セシウムの環境動態を考慮することが重要となる.日本原子力研究開発機構では,東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウムが森林,河川,ダム,河口域を移動することによる生活圏内の空間線量率の将来予測や移動抑制対策の提案を目的とした「福島長期環境動態研究プロジェクト(F-TRACE プロジェクト)」を行っている.これまでに同プロジェクトでは,阿武隈山地の生活圏に隣接する森林からの放射性セシウム流出量の評価を進め,現地観測から放射性セシウム流出率は年間約0.1~0.2%であり,森林からの流出量は著しく少ないことが明らかになった(新里ほか,2014).本発表では,福島県阿武隈山地の急峻な山岳地からの放射性セシウム流出量の評価を目的として,同山地の河谷に設置された治山ダムに堆積した土砂量を3Dレーザースキャナーにより計測し,堆積土砂の放射性セシウム濃度分析値を用いて,森林からの放射性セシウムの流出量を推定した.
 計測を行った治山ダムは,福島県阿武隈山地中央部の急峻な山岳地に位置する河谷にあり,治山ダムの流域は広葉樹とスギの針広混交林である.計測は,2013年8月29日と2014年12月3日に実施し,3Dレーザースキャナーを用いて治山ダム堤体の上流側における地表面を計測した. 3Dレーザースキャナーにより得られた点群データを水平断面が5 cm×5 cm となる領域ごとに分割し,領域ごとに標高が最低となる点1点を抽出した.さらに,樹木表面上の点を除去することで約25 cm2 に1点の密度となる地表面の点群データを作成した.抽出した点群データを用いてTINメッシュを生成し,地表面をモデル化した.2013年8月29日の地表面モデルから2014年12月3日の地表面モデルの高低差を求めることにより,堆積土砂量の変化を算出した.
 計測の結果,15か月間で堆積土砂量は増加しており,その増加量は0.5 m3であった.治山ダムの流域面積が21,000 m2であることから,治山ダムの流域における年間あたりの侵食深は約0.02 mm/年となり,堆積土砂の密度を1 g/cm3 と仮定すると,年間あたりの比土砂生産量はおおよそ20 g/m2 (密度2 g/cm3の場合はおおよそ40 g/m2)となる.
 塚本(1998)では,草地・林地の地被別年侵食量を10-1~10-2 mm/年としており,侵食深さについては,本調査とほぼ同程度の結果であった.対して,藤原ほか(1999)は,基準高度分散量と侵食速度の相関から阿武隈山地の年間の侵食量を0.132 mm/年と推定しており,本発表の計測結果と1桁の差がある.藤原ほか(1999)では,捕捉率が100%とみなせる貯水量が200万m3以上で堆砂率が25%以下のダムにおいて,流量の変動が平均化されているダムを対象とし,堆砂量が安定した約30~40年間のデータの平均値に基づき算出している.本件で対象としている治山ダムは堤体の幅が20 m程度の小型のダムであり,平常時の土砂の移動量が少なく,稀頻度で大規模な土砂崩れが発生する場所に位置している.このため,侵食量が藤原ほかによる推定値より小さな値になったものと考えられる.
 また,対象の治山ダムの地形は,流路が下流側3分の1のところで屈曲しており,小規模な堆積面が複数確認できる.このため,平常時には流域の上流側3分の2の部分からの移動土砂が屈曲部で堆積し,治山ダムの位置する最下流部まで到達せず,今回の土砂の堆積量が過小評価されている可能性も考えられる.ここで,同屈曲部までの流域面積である6,200 m2を土砂流出の寄与面積と仮定し算出すると,侵食深さは約0.08 mm/年,年間あたりの比土砂生産量はおおよそ70 g/m2となる.以上の検討を踏まえると,本調査地における山岳地の河谷からの土砂生産量は10-1~10-2 mm/年のオーダー,年間あたりの比土砂生産量は101 g/m2のオーダーになると推定される.
 ここで,本調査地における深度5 cmまでの土砂の放射能濃度は,Cs-137:40万 Bq/kg,Cs-134:15万 Bq/kgであることから,15か月間に治山ダム上流の河谷から流出した放射性セシウムはCs-137:1万 Bq/m2,Cs-134:3千 Bq/m2と推定される.
なお,講演では現地調査で得られた推定結果と数値解析で得られた結果との比較結果についても報告する.