日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW25] 都市域の地下水・環境地質

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 101B (1F)

コンビーナ:*安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、浅田 素之(清水建設株式会社)、滝沢 智(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)、鈴木 弘明(日本工営株式会社 中央研究所 総合技術開発部)、西田 継(山梨大学大学院医学工学総合研究部)、座長:西田 継(山梨大学大学院医学工学総合研究部)、安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)

15:35 〜 15:55

[AHW25-06] 発生土や分別土の利用と地盤環境への影響

*勝見 武1 (1.京都大学大学院地球環境学堂)

キーワード:発生土, 重金属, 地盤環境

土木工事では従来より「切り盛りをバランスさせる」などと称して,切土やトンネル掘削などの発生土を盛土や土地造成などに効果的に活用してきた。土という資源を有効に活用しつつ,地震や洪水など災害多発で,かつ平野部の少ない国土の整備が営まれてきたのである。一方,掘削土砂に自然的原因で重金属等が含まれたり酸性水を発生しうるリスクが近年クローズアップされるようになっている。特に,2003年に施行され,2010年に比較的大きく改正された土壌汚染対策法により,掘削土中に自然的原因で含まれる重金属等への対応について,より一層の配慮が払われるようになっている。

土や岩石に重金属が含有している状況は特別なことではない。重金属元素が高濃度で含まれていれば鉱床となり,事業として成立するほどの濃度と規模の鉱床であれば鉱山として我々人類に恵みをもたらす。一方,採掘するほどの高濃度ではないが,環境基準を超過するような含有量・溶出量を呈する岩石や土も存在し,これらを掘削する際にはその取扱いが問題となる。このような重金属等が地盤中に含有する原因としては,熱水作用による金属鉱物の生成,温泉水や鉱泉水からの重金属の濃集,海中における重金属の濃縮などが考えられている(湊,1998)。また,その結果として表れる重金属存在形態を整理すると,鉱物の主成分として含まれる場合,鉱物中の微量成分として含まれる場合,岩石に構成する細粒分(泥岩を構成する微細粒子など)に吸着した状態で含まれる場合,海成堆積物に含まれる場合,腐植物等の有機物と化合して存在している場合,などが考えられ,溶出特性もこれらの存在形態に応じて異なることに注意が必要である。

自然由来の重金属等の含有の可能性のある地盤に対して工事を行う場合には,その有害性を判定する必要がある。溶出リスクの評価として一般的に行われる平成3年環境庁告示第46号の溶出試験は本来は表層の人為汚染を対象としているため,自然由来の重金属等にこれをあてはめるにはいくつか難点があることには既に多くの指摘がある。例えば46号試験は2 mm以下の土壌を対象としているが,掘削ずりでは岩をどのくらいの大きさまで粉砕するのかが問題となる。また,時間の経過に伴いpHが低下して溶出量が増加するものもあるが,46号試験ではそのような特性は評価できない。過酸化水素水を用いて強制酸化の条件をつくりだし酸性化可能性と溶出量を検討する例もみられるが,この方法では岩石そのものが有する中和緩衝作用を考慮できないため重金属溶出量を過大に評価しうる問題点もある。短期・長期それぞれについて酸性水の発生と重金属等の溶出特性を的確に判定し,対応につなげることが重要である。例えば乾ら(2014)は数種類の岩石について27ヶ月の雨水暴露試験を含む様々な試験を行い,「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)(2010)」で提示されている全含有量に基づくスクリーニング試験や,3%過酸化水素水による強制酸性化試験の有効性を議論している。様々な成果を踏まえ、科学的合理性のある環境安全性の評価法の体系化が求められる。

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震・大津波の被災地では復旧・復興に関わる様々な土木事業が行われ,岩手・宮城・福島3県をあわせると12,600万m3もの土が必要との報告もある(地盤工学会,2014)。この大量の土砂を確保するのに一部では新たな土取り場を開発することも行われているが,発生土の有効利用を進め,新材の利用をできる限り抑制することが必要である。地震と津波により多量に発生した災害廃棄物等には相当量の土砂が含まれており,処理によって再生された分別土砂の有効利用も求められた。分別土砂の一部にはヒ素やフッ素で環境基準を超えるなどの報告があった。復興事業で土砂が不足する中、基準超過の土砂についても環境安全性を確かめながら資材として利用していく可能性についても議論が必要である。土の選定・利用にあたっては、有害物質に対する安全性だけでなく、力学特性や耐久性、施工性や経済性なども十分に考慮されなければならず、「土の総合マネジメント」が重要である。そのような背景に基づき、地盤工学会では「災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン」をとりまとめ、基準超過の土砂について利用部位とモニタリングの配慮を行いつつ有効利用を行う考え方を提示した。本ガイドラインの対象は災害復興における土砂の利用だが、基準をわずかに超過する土砂の取り扱い、管轄の異なる事業間での土砂のやりとり、土砂のストックや運搬などの課題は、平時における副産物の有効利用にも関係する課題に位置付けられる。