日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)

18:15 〜 19:30

[HTT31-P12] 西部北太平洋亜寒帯及び亜熱帯海域における低次生態系の動態解析

*野口 真希1石井 励一郎2和田 英太郎1 (1.独立行政法人 海洋研究開発機構、2.大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

キーワード:窒素安定同位体比, 炭素安定同位体比, 食物連鎖, 同位体分別

生物の安定同位体比は、捕食者自身の代謝系の駆動様式や行動変化に起因するものと、食物網が存在する地域性に起因するものの2つの要因によって決定される。そこで本研究では栄養塩や水温などの海洋環境の違いによって、低次生態系における食物網にどのような違いがあるのかを見るために、西部北太平洋亜寒帯海域及び亜熱帯海域において、動物プランクトン及び海水試料を季節及び鉛直層別に採集を行い比較検証した。本研究では、特にメソ動物プランクトン群集を中心に群集構造と栄養動態について時空間的にどのように変動をするのか同位体比から検証を行った。
2010年2月から2011年7月まで、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の観測点K2(47oN, 160oE)及びS1(30oN, 145oE)において動物プランクトン試料の採集及び採水を行った。試料は多段開閉式ネットIONESSを用いて0-50, 50-100, 100-150, 150-200, 200-300, 300-500, 500-750, 750-1000m の計8層の曳行採集し、船上にて凍結保存した。またネット曳行時に動物プランクトンと一緒に採取された魚類も合わせて凍結保管した。凍結試料は解凍後、速やかに種別ソーティングを実施し、1日間の乾燥と脱脂処理を施した後、SIサイエンス(株)及び総合地球環境学研究所にて窒素、炭素安定同位体比(δ15N、δ13C)の測定を行った。更に、食物連鎖のベースラインを理解するために、海水の硝酸イオン中(NO3-+NO2-)の窒素安定同位体比について脱窒菌法(Casciotti et al., 2002; Sigman et al., 2001)を用いて東京農工大学、カリフォルニア大学デービス校にて測定した。
同位体比を使った動物プランクトン群集の栄養動態と時空間分布の変動解析では、K2において表層付近の端脚類やカイアシ類(雑食性)のδ15N、δ13Cが季節に伴って大きく変動していた。一方、S1における動物プランクトンのδ15Nの値、及び硝酸塩濃度に対するS1の15NO3- + 15NO2- の値がK2と比べ低い傾向が見られた。動物プランクトンを含め全体的に15Nが低くなっていることから、窒素固定の影響により食物連鎖に大きく影響していることが示唆された。
本研究で得られたK2及びS1の結果に、南極海、アラスカ湾、親潮水塊、黒潮系暖水塊の4海域における生物の同位体比データを合わせ、食物連鎖全体が持つΔδ15N/Δδ13Cについて統計的な比較を行った。その結果、海域間に有意な差が無く、一定の共通式で表せる事が分かった。我々がこれまで調べた限られた食物連鎖の範囲では、生態系や生物種によらずΔδ15N/Δδ13C に大きな差が見られないことから、自然界の食物連鎖中の摂餌プロセスの同位体分別(Δδ15N/Δδ13C)は、共通のアミノ酸代謝や脱炭酸を中心とするエネルギー代謝によって決定されることにより、統一的な規則性が低次から高次まで維持されていることが強く示唆された。