日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 A01 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*山下 陽介(国立環境研究所)、秋吉 英治(国立環境研究所)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、冨川 喜弘(国立極地研究所)、座長:冨川 喜弘(国立極地研究所)

12:00 〜 12:15

[AAS11-06] 非定常な波強制に対する中層大気2次元及び3次元循環の形成

*林 佑樹1佐藤 薫1安田 勇輝1 (1.東京大学理学系研究科)

キーワード:中層大気、循環、波強制

中層大気のラグランジュ的子午面循環は、オゾン等の物質を輸送するだけでなく、大気の温度構造に力学的に影響する。この子午面循環は、主に大気波動による遠隔的な運動量の再分配によって駆動されている。従来の研究では、Haynes et al. (1991) のダウンワードコントロールの原理を用いた解析のように「定常の仮定」が多く用いられてきた。しかし、一般に波強制は非定常であり、「定常の仮定」を用いた議論には限界がある。たとえば成層圏突然昇温では、波強制の時間スケールが短く、子午面循環は定常を仮定した場合と異なる応答を示すことが予想される。このような、過渡的現象を解析するためには、「遅い」変数(線形化渦位 q )の記述する運動だけではなく、「速い」変数(水平発散 δ と非地衡渦度 γ )の記述する運動の時間変化も含む方程式系を用いなければいけない。本研究の目的は、非定常な波強制に対する循環の形成過程を、「速い」変数の時間変化も含めて理論的に明らかにすることである。そこで、本研究では、まず Boussinesq方程式系を用いて、非定常で東西一様な波強制に対する2次元の形成過程を調べ、次に理論的に導出したバランス方程式を用いて、非定常で東西非一様な波強制に対する3次元の循環形成を理論的に調べることにした。
大気の大規模運動はRossby 数が十分小さいため、強制に対する応答として線形応答が支配的であると考えられる。線形応答を調べるのに適した手法の1つにGreen 関数の方法がある。ここで、Green 関数とはデルタ関数型の強制に対する応答を記述する関数である。本研究ではGreen関数を解析的な手法によって求め、循環を記述する変数である水平発散 δ と非地衡渦度 γ 、地衡流を表す変数である線形化渦位 q の時間発展を求めることにした。主に東西方向の運動方程式における波強制に対する応答を詳しく解析したが、南北方向の強制や熱力学の方程式における非断熱加熱に対する応答についても簡単に議論を行っている。
まず、東西一様な強制に対する応答を解析した。時間的に一定な強制に対する定常解は、鉛直2細胞型の循環となることがわかった。強制の強さを時間方向にステップ関数的に変化させると、過渡的な応答として、広い帯域に亘る振動数を持つ大規模な重力波が放射されるが、最終的には慣性振動と準定常な子午面循環が残ることがわかった。この子午面循環は定常解とほぼ一致していた。また、循環形成の時間スケールに着目した解析を行った。その結果、その依存性は次元解析による理論的予想と調和的であり、過渡的に生じる重力波の群速度と強制の空間構造がその時間スケールをほぼ決定していることがわかった。また、強制の強さがゆっくりと変化する場合についても解析を行った。強制の時間スケールが慣性周期より長い場合は、重力波は発生せず、循環は波強制の変化に隷属して緩やかに変化することがわかった。これは子午面循環が各時刻で「定常の仮定」により得られた循環場に一致することを示している。また、与えられた波強制に対して、東西風加速とコリオリトルクにどのように分配されるかも調べた。その結果、分配は強制の形状に依存すること、その特徴は次元解析により理論的に説明可能であることがわかった。
次に、強制が東西非一様な3次元構造を持つ場合を考えた。この場合、過渡的な応答としてロスビー波の放射が予想される。重力波とロスビー波の時間スケールは大きく異なるため、ロスビー波に焦点をあてて解析することにした。すなわち、強制の時間スケールが慣性周期より大きく、「速い」変数で記述される運動が完全に隷属している場合を考えた。Leith (1980) でも用いられたバランス方程式の手法を用いて、「速い」変数の時間変化を除いた支配方程式系を導いた。この方程式系では、「遅い」変数である線形化渦位 q で記述される地衡流は時間発展を陽に解くのに対し、「速い」変数である水平発散 δ と非地衡渦度 γ で記述される循環は、強制項や β 項によって診断的に求められる。これらの式を用いて理論解析を行った。β 項がない場合、地衡流の定常解は強制付近に局在した東西対称な場となるが、β 項が存在する場合、地衡流は東西非対称で強制の西側に局在する構造となった。また、このような応答の β 効果依存性は、「遅い」変数である線形化渦位 q だけではなく、診断的に求められる「速い」変数である水平発散 δ と非地衡渦度 γ にも見られた。時間依存性がステップ関数型の強制に対しては、ロスビー波の過渡的応答が強く見られ、時間経つにつれて東西波数の小さな構造が先に消えていくことがわかった。また、最終的に定常に至るまでの時間スケールには、線形緩和の強さ κ に依存することがわかった。