日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 A01 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*山下 陽介(国立環境研究所)、秋吉 英治(国立環境研究所)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、冨川 喜弘(国立極地研究所)、座長:秋吉 英治(国立環境研究所)

16:30 〜 16:45

[AAS11-17] 成層圏SO2注入による気候工学の強制とフィードバック:GeoMIP G4実験の解析

*樫村 博基1関谷 高志2阿部 学1渡邉 真吾1 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、2.名古屋大学 環境学研究科)

キーワード:気候工学、成層圏エアロゾル、短波放射、GeoMIP

気候工学(geoengineering)とは「人為的な気候変動の対策として行う意図的な惑星環境の大規模改変」である。地球温暖化に対抗するための気候工学の手法は、太陽放射の一部を人為的に宇宙空間に反射させて地表に降り注ぐ放射量を減らす方法(Solar Radiation Management; SRM)と大気中の二酸化炭素を取り除く方法(Carbon Dioxide Removal; CDR)に大別される。SRMの中で最も有力な方法の1つが、成層圏エアロゾル注入である。これは、例えば1991年のピナツボ山のような大規模な火山噴火を模して、成層圏に硫酸塩エアロゾルを注入・散布することで、大気の太陽放射反射率を増加させて、地表が受け取る短波放射量(正味地表短波放射)を減らし、地表気温を下げようとするものである。気候工学に関するモデル相互比較計画(GeoMIP)では、地球システムモデルを用いた気候工学数値シミュレーションの相互比較実験が実施されている。
本研究では、成層圏エアロゾル注入に関するやや現実的な実験設定のGeoMIP-G4実験について解析する。G4実験は、地球温暖化シナリオの1つRCP4.5実験を基準(比較対象)として、その上で2020年から2070年までの間、毎年 5 Tg(1991年ピナツボ山噴火の約1/4に相当する)の二酸化硫黄(SO2)を赤道下部成層圏に注入するという想定の実験である。ただし、成層圏エアロゾル注入の再現方法は統一されておらず、SO2から硫酸塩への化学反応過程や核形成・凝集成長などの微物理過程をモデル化して陽に解くモデルもあれば、単に1991年のピナツボ山噴火後の成層圏のエアロゾルの光学的深さ(Aearozol Optical Depth; AOD)をもとに作られた規定のAODを境界値データとして与えるだけのモデルもあり、実験結果の比較には工夫を要する。また、成層圏エアロゾル注入によって地表(対流圏)の気温が低下することで、少なくとも雲量・水蒸気量・地表面アルベドが変化すると考えられる。これらは短波の反射や吸収に影響するため、SRMの効果に対してフィードバックを与える。
そこで本研究では、G4実験における各モデルのSRM強制とフィードバック効果を分離して求めるために、1層大気を仮定した短波放射伝達モデルを応用する。すなわち、GeoMIPで提供されている物理量である大気上端(TOA)と地表面における短波の下向き・上向き放射量(全天および晴天)から、晴天大気の短波反射率・吸収率、雲の効果、地表面アルベドを求める。そして、それぞれの変化量(G4 − RCP4.5)の、正味地表短波放射の変化量に対する寄与を求めることで、SRM強制と各フィードバック効果を見積もる。この際、晴天大気の反射率の変化は成層圏エアロゾルによるもの、吸収率の変化は水蒸気量の変化によるものであると仮定している。
解析の結果、SRM強制の大きさは全球・時間平均値でおよそ−3.6から−1.6 W/m2 と、モデルごとのバラツキが大きいことが示された。また、SO2から硫酸塩への化学・微物理・輸送過程を陽に計算したモデルの方がSRM強制が大きく、規定のAODでは毎年 5 TgのSO2注入によるSRM強制としては過小評価であることが示唆された。雲量と水蒸気量の変化に伴うフィードバックはともに、+0.5から+1.5 W/m2程度の加熱効果であった。ただし、水蒸気量の変化の効果は、地表気温の変化量とほぼ比例(気温低下が大きいほど加熱効果も大きい)しているのに対して、雲量変化の効果は気温低下量と相関が低く、その振る舞いはモデル間で一貫していない。一方、地表アルベドの変化は冷却効果のフィードバックをもたらすものの、その大きさは(全球平均値で見る限りは)小さい。
以上の結果から、成層圏エアロゾル注入による気候工学のシミュレーション(G4実験)において、SRM強制そのもののバラツキが大きいこと、そしてSRM強制は雲量・水蒸気量・地表アルベドの変化がもたらすフィードバックによって、地表では半分程度に減じうることが示された。