日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*山下 陽介(国立環境研究所)、秋吉 英治(国立環境研究所)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、冨川 喜弘(国立極地研究所)

17:15 〜 18:30

[AAS11-P04] ラジオゾンデ観測に基づく信楽上空の夏季対流圏・成層圏の微細構造の解析

*水谷 雄太1菅野 彰太1河田 裕貴1佐藤 薫2 (1.東京大学理学部地球惑星物理学科、2.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:ラジオゾンデ観測、ウェーブレット解析、内部重力波

本研究では,対流圏および成層圏の大気の微細構造の特徴を調べるため,京都大学信楽MU観測所において2015年7月27日18:00JSTから28日18:00JSTの期間において,9回のラジオゾンデを放球し,3時間ごとの水平風,気温,湿度の鉛直プロファイルを観測した.高度分解能はおよそ5mである.観測期間中,気圧配置は南高北低のまま大きく変わることはなく,典型的な日本の夏の大気構造がとらえられたものと考えられる.浮力振動数を基に推定した対流圏界面の位置もほぼ一定で,約15kmであった.このデータを用いて,大気境界層の日変化,卓越波長の高度依存性,成層圏に現れた顕著な波状構造の力学特性とその起源についての解析を行った.
まず,地上から下部・中部対流圏に着目し,大気境界層の日変化の様子を詳しく調べた.解析した物理量は温位,相当温位および水蒸気混合比である.混合層内では,対流が活発に起こるためこれらの保存量が一定になると予想される.解析の結果,9時,12時,15時にかけて,これらの値が鉛直に一定となる層が現れ,そのトップが高度0.5kmから1.2kmまで時間と共に上昇する様子がみられた.これは朝から午後にかけての大気混合層の発達を表すと考えられる.一方3時のデータにおいては,地面付近に強い夜間逆転層が現れていた.
次に,ボックスカー型のmother waveletを用いたwavelet解析を行った.各時刻の気温,東西風,南北風の鉛直プロファイルのwaveletスペクトルを計算し,全期間の平均を求めた.成層圏の下層(高度15~25km)と中層(高度25~35km)での卓越波長がそれぞれ約1km,約6kmと大きく異なることが明らかとなった.浮力振動数は成層圏でほぼ一定であり、また、背景風にも大きな変化は見られなかったことから,成層圏中層に見られた卓越波長の長い擾乱は,信楽から離れた地点で発生し,水平に伝播してきた波動であることが考えられる.
成層圏中層に見られた長い鉛直波長の擾乱の位相は,時間と共に下がっていた.これはエネルギーを上向きに伝播する内部重力波の可能性が高いことを示唆する.そこで,内部重力波であると作業仮説をたて,ホドグラフ解析を行った.まず,高度20km以上の東西風,南北風の鉛直プロファイルを最小二乗法を用いて直線近似したものを背景場として取り除き,擾乱成分を取り出した.そして,擾乱成分の鉛直方向のホドグラフを作成し楕円で近似した.楕円の長軸と短軸の比から固有周波数を求めた.固有振動数と鉛直プロファイルから得られた鉛直波数を用いて分散関係式により水平波数を求めた.得られた波のパラメータから対地振動数を求め,これが直接観測された対地振動数とほぼ一致することを確認できた.これは,擾乱が内部重力波であるとした作業仮説が妥当であったことを意味する.さらに,波のパラメータと背景場の値から(対地)水平群速度を求め,波の伝播経路を推測したところ,朝鮮半島北部に位置する低気圧から発生した内部重力波である可能性が高いと結論できた.