日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS12] 大気化学

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 303 (3F)

コンビーナ:*入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、町田 敏暢(国立環境研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、岩本 洋子(東京理科大学 理学部第一部)、座長:須藤 健悟(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)

14:00 〜 14:15

[AAS12-02] 八方尾根におけるオゾンおよびCOベースライン濃度推定とその長期変動解析

*岡本 祥子1谷本 浩志1奈良 英樹1 (1.国立環境研究所)

キーワード:オゾン、一酸化炭素、ベースライン

東アジア酸性雨モニタリングネットワークEANET(Acid Deposition Monitoring Network in East Asia)のひとつである、長野県白馬村の国設八方尾根酸性雨測定所(36.7°N, 137.8°E, 1840 m asl)では、1998年の観測開始以降、春季に大きなO3濃度の長期増加傾向が確認されている(Tanimoto, 2009)。その原因として、急激な経済成長を遂げる中国からの越境汚染が考えられるが、モデル計算では中国の寄与でその半分を説明できるものの、残り半分は依然として説明できない状況にある(Tanimoto et al., 2009)。八方尾根のような山岳基地における観測データは、局所的および領域的な排出・除去の直接的影響が少ないため、温室効果ガスやエアロゾルなどのベースライン濃度の推定に用いられてきた(e.g., Parrish et al., 2012)。しかしながら、遠隔地でも局所的および領域的な排出の影響を受けるため、地域代表性のあるベースライン濃度の推定にはデータのフィルタリングが必要である。
本研究では、Ruckstul et al.(2012)のREBS(Robust Extraction of Baseline Signal)法と呼ばれるロバスト回帰に基づいた統計的手法を用いて、八方尾根におけるO3(1998–2014年)とCO(1996–2004年および2013–2014年)のベースライン濃度と汚染濃度の推定をおこない、その長期変動について解析をおこなった。2013–2014年のCO濃度は1996–2004年に比べて有意に低く、その傾向は特に夏季と秋季に大きく、春季に最も小さかった。また、ベースラインCO濃度は、近年、春季以外減少しており、逆に春季にはやや増加していた。汚染CO濃度は全季節で減少しており、その減少量はベースラインCO濃度に比べて大きかった。一方、O3濃度は2000年代半ばをピークに全季節で減少の傾向を示しており、その傾向は春季に最も大きく、夏季に最も小さかった。ベースラインO3濃度と汚染O3濃度も全季節で減少傾向を示し、春季の減少速度はベースライン濃度と汚染濃度で同程度であった。以上のことから、春季の八方尾根でのCO濃度減少は汚染濃度の減少が主な原因だが、O3濃度の減少は汚染と同程度にベースライン濃度の減少が原因と考えられる。