日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS12] 大気化学

2016年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 303 (3F)

コンビーナ:*入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、町田 敏暢(国立環境研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、岩本 洋子(東京理科大学 理学部第一部)、座長:笹川 基樹(独立行政法人国立環境研究所)、Sasakawa Motoki(NIES National Institute of Environmental Studies)、松井 仁志(名古屋大学大学院環境学研究科)

16:15 〜 16:30

[AAS12-10] 南極昭和基地周辺における表面積雪中BC濃度および粒径分布の季節的傾向

*木名瀬 健1北 和之2東 久美子3,4小川 佳美3近藤 豊3,5茂木 信宏5大畑 祥5森 樹大5林 政彦6原 圭一郎6塩原 匡貴3,4川島 洋人7 (1.茨城大学大学院理工学研究科、2.茨城大学理学部、3.国立極地研究所、4.総合研究大学院大学、5.東京大学大学院理学系研究科、6.福岡大学理学部、7.秋田県立大学システム科学技術部)

キーワード:南極、昭和基地、積雪、ブラックカーボン、粒径分布、季節変化

黒色炭素エアロゾル(以下BC)は化石燃料やバイオマスの燃焼時に発生する煤が主なものとされ、大気中で太陽放射を吸収することで強い温暖化効果をもたらす。さらにBCは雪氷面に沈着することで、雪のアルベドを下げ温暖化に寄与する。IPCC (2013)は積雪に沈着したBCの放射強制力を1875年からで0.04 (W m-2)と見積もられ90%の大きな不確定が残ると報告しており、雪氷面におけるBCはさらなる研究が求められている。雪氷面のアルベド計算は、雪氷表面及び内部での雪粒子とBCなどの含有不純物を考慮した放射伝達モデルで見積もられ、積雪中に含まれるBCの全重量濃度及びその粒径分布の情報が必要となる。そのため、雪氷中のBC粒径分布を正しく測定することは、BCの気候への影響を定量的に見積もる上で非常に重要だが、積雪中のBC粒径分布を測定する手法が開発されたのは比較的最近であり、特に南極のような観測が困難な地点では積雪中BCの粒径分布測定例はまだない。
本研究では第52次南極観測隊活動時(2010-2012)に昭和基地で採取した29個の雪サンプル中のBC濃度及び粒径分布の測定を行い、その濃度や粒径分布の変動要因について考察した。BC濃度及び粒径分布は東京大学及び国立極地研究所の測定粒径範囲を拡張したSingle Particle Soot Photometer (SP2, cf. Mori et al., (2016))により測定し、さらに各種イオン濃度とpHの測定を行った。大気中BC濃度と積雪中BC濃度の関係を調べるために、雪サンプル採取期間にはAethalometerで大気中BC濃度の測定も行った。その際に、サンプル空気を300 ºCに加熱することで揮発性の散乱性物質による測定影響を小さくした。
積雪はその表面(0–10cm)を250 ccガラス瓶に直接掬い取り、分析直前まで-20℃以下で保存した。また、2011年10月には、みずほ基地旅行隊に依頼してルート上の積雪採取も行った。JpGU2015での発表及びKinase et al.(2016)の実験結果に基づき低温かつ短時間でサンプルを解凍するため、250 cc瓶中の雪をセラミックナイフで突き崩し20 ccガラス瓶3本に入れ、それぞれを冷蔵庫内で解凍し超音波振動を15分間与えてから1本に混ぜ合わせた。30 cc LDPE瓶でもサンプルを用意し、イオン及びpHの分析に使用した。
測定された昭和基地周辺の表面積雪全サンプルのBC濃度及び粒径分布を図にまとめた。BC濃度平均値は591.6 ±714.1 (ng L-1)となった。また季節変動があり、5–9月(冬~初夏)に平均248.8±160.2 (ng L-1)と比較的低濃度となり、その他の季節では平均934.4±885.6 (ng L-1)と比較的高濃度であることが分かった。また比較的内陸に位置するみずほルート上の積雪では、816.9±110.0 (ng L-1)で、同時期の昭和基地の積雪 (434.9±224.9 (ng L-1))に比べ比較的高濃度だった。この濃度は過去に行われた異なる南極域での積雪中BC濃度の測定結果(Chýlek et al., 1987, 1992; Warren and Clarke, 1990; Grenfell et al., 1994) より若干高濃度であるもののそれぞれの変動範囲では一致していた。これまで報告例のない南極積雪中のBC粒径分布も測定することが出来た。季節変動傾向があり、冬期間には粒径100~300 nm程度の小粒径に集中するが、夏期間には1 µmより大きい粒径の粒子もしばしば検出された。しかし、これらの変動とイオン濃度及びpH値には関係性がみられなかった。
大気中BC濃度は冬期間に比較的高濃度で夏期に比較的低濃度となることが示された。ただし、海塩や鉱物などの影響を受けていた可能性がある。主な昭和基地周辺へのBC輸送過程として、低気圧(ブリザード)に伴って輸送される場合と、大陸から吹くカタバ風による場合が考えられる(Hara et al. (2008))。低気圧によるイベントは冬季に集中して発生し、カタバ風によるイベントは夏期に多く発生することから、大気中BC濃度の季節変動はBCの輸送・沈着プロセスの季節的変化を反映していると推測される。
大気中BC濃度と表面積雪中BC濃度の季節変動がほぼ逆の傾向を持っていたことから、昭和基地周辺での大気中BCの直接的な沈着は、影響が大きくないと考えられる。そのため積雪中BC濃度は、降雪に至るまでにおこる大気から雪粒子中への沈着過程及び沈着効率が大きく影響すると考えられ、積雪中BC濃度の季節的な変化はそれらの季節変化を反映していると考えている。
また、積雪中BC濃度及び粒径分布の季節変動は、全天日射量と同期しており、日射量の変化も積雪中BC濃度の変動に関係している可能性があることも分かった。JpGU2015やKinase et al. (2016)で報告した実験から、積雪を強く加熱したり融解後再凍結すると、積雪中BC粒径分布に変化が生じることが分かっている。日射による氷晶や積雪の加熱や雪からの水蒸気の昇華などのプロセスも季節的なBC濃度や粒径変化に寄与している可能性も考えられる。今後、南極における積雪中BC測定を長期的に行いより多くの情報を得ること、大気中BCの南極への輸送や南極域での水循環をより明確に理解し、降水や降雪に対するBCの沈着割合や、その過程でBCが受ける加熱影響を明らかにすることが重要と考えられる。