日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS12] 大気化学

2016年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 303 (3F)

コンビーナ:*入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、町田 敏暢(国立環境研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、岩本 洋子(東京理科大学 理学部第一部)、座長:金谷 有剛(国立研究開発法人海洋研究開発機構地球表層物質循環研究分野)、松井 仁志(名古屋大学大学院環境学研究科)

09:00 〜 09:15

[AAS12-13] 小型で簡便かつ精度の高いPM2.5計測装置の開発とその応用

*松見 豊1中山 智喜1 (1.名古屋大学宇宙地球環境研究所)

キーワード:小型PM2.5計測器、機器開発、大気エアロゾル

中国の北京で大気中に浮遊する微粒子(大気エアロゾル)が非常に高濃度になったことをきっかけとして、特に直径2.5 ミクロン以下のエアロゾル粒子(PM2.5)に関して非常に国民の関心が高まった。大陸だけでなく日本への飛来も心配されるようになってきた。PM2.5粒子に対する環境基準は、立方メータあたりのエアロゾルの質量によって規定されている。日本におけるPM2.5の環境基準は,1年平均値が15μg/m3以下であり,かつ,1日平均値が35μg/m3以下であること,となっている。これの質量濃度を測定する連続大気粒子モニターとしては、ベータ線吸収法やEOM原理(振動素子式マイクロ天秤)などの装置があり、全国の環境測定局や研究観測に用いられている。しかしながら、これらの測定法の装置は、非常に高価であり、また、半日程度の積算時間が必要である。そこで、パナソニック(株)との共同研究により、手のひらに載る大きさの小型のPM2.5計測器を開発してきた。
開発した小型PM2.5計測器は、LEDを光源として大気中の微小粒子による光散乱を計測するものである。測定精度を上げるため、光散乱強度から粒子径を推定して、PM2.5の質量濃度(μg/m3)を算出している。レスポンスは1分以内である。公定法のベータ線吸収法の装置と同時計測して相関を取ると0.8以上の高い相関係数が得られている。
このような小型でローコストかつ簡便なPM2.5計測装置が利用可能になると、いろいろな応用の可能性が開けてくる。一つは、都市域で高密度に測定器を数多く配置して測定する応用がある。PM2.5には様々な局所的な排出源があることが予測されそれに対応した計測が可能になる。また、自動車やドローンなどの移動体に搭載し、様々な角度から大気中のPM2.5を計測することが可能になる。さらに、発展途上国でのPM2.5計測への応用があげられる。幾つかの発展途上国では、高濃度なPM2.5が大きな環境問題となり、健康影響が非常に心配されている。しかし、発展途上国の遠隔地では、安全の確保が難しくて高価な機材は設置が難しい、頻繁なメンテナンスのアクセスが困難であり、さらには電力事情が悪く1日に数時間の通電しか無なく頻繁な瞬間停電があるという観測のインフラの条件がある。更には、観測条件として高い気温、雨漏り、ホコリ、虫発生、ネズミ妨害という問題がある。このような厳しい条件では高価なPM2.5計測装置での測定は困難である。今回開発した小型装置では、このような環境での測定が可能である。また、PM2.5の高濃度な地域の多点の観測は、疫学的な調査にも最適である。
発表では、開発した小型PM2.5計測器の紹介とともに、我々が開始している特性を活かした計測応用や発展途上国への展開の紹介を行う。
現在、皆様の様々で広範なアプリケーションに対応できるように、手のひらに載るPM2.5小型センサとUSBケーブルでパソコンにつなぐだけのシステムを用意している。また、センサと小型CPUを組み合わせてUSBメモリに1年以上データを蓄積できる野外で単独で動作するシステムも用意している。本装置を使用した新たな計測応用に関して皆様の提案を受付け、協力の可能性を検討したい。