日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS12] 大気化学

2016年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 303 (3F)

コンビーナ:*入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、町田 敏暢(国立環境研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、岩本 洋子(東京理科大学 理学部第一部)、座長:金谷 有剛(国立研究開発法人海洋研究開発機構地球表層物質循環研究分野)、梅澤 拓(独立行政法人国立環境研究所)

12:00 〜 12:15

[AAS12-24] 三酸素同位体組成を指標に用いた大気中ガス状亜硝酸の起源推定

*中川 書子1中根 令以1角皆 潤1須藤 健悟1野口 泉2山口 高志2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.北海道立総合研究機構 環境科学研究センター)

キーワード:HONO、三酸素同位体組成、二次生成、直接排出、大気

大気中のガス状亜硝酸(HONO)は、日中の光分解反応により、OHラジカルを生成する。OHラジカルは大気中の主要酸化剤であり、還元性気体(メタンや炭化水素類)の大気寿命を決めたり、オゾンやアルデヒド等の有害成分や有機エアロゾルの生成や分解にも関与する重要な極微量成分である。HONOの発生源には、各種発生源からの「直接排出」と大気中の窒素化合物からの「二次生成」の二種類が想定される。しかし、未知の発生源が存在する可能性を含めて、HONOの発生源に関する知見は乏しいのが現状である。そこで本研究では、HONOの三酸素同位体組成(Δ17O値)を指標に用いることで、「直接排出」由来のHONOと「二次生成」由来のHONOとの混合比の定量を試みた。「二次生成」由来のものは、その生成過程にO3が関与するため、生成されるHONOのΔ17O値は対流圏O3(Δ17O = +30 ± 10‰程度)に匹敵する大きな値を持つと予想される。一方、「直接排出」由来のものは、H2OやO2を起源とした一般の化学反応を経由して生成されるため、Δ17O値が0‰と考えられる。従って、大気中のHONOのΔ17O値を定量することで、全HONOに占める「二次生成」由来の寄与率を見積もることができると考えられる。
大気観測は、札幌市内にある北海道立総合研究機構の環境科学研究センターの屋上で、月に一度の頻度で行った。HONO試料の捕集は、野口ら(2007)が開発したフィルターパック法を用いて行い、吸引速度は10 L/min、捕集期間は一週間という条件で行った。HONOのΔ17O値は、大気中のHONOを炭酸カリウム含浸フィルターに捕集した上でNO2-として抽出し、それをアジ化水素と反応させてN2Oに変換し、さらに熱分解によってO2に変換した上で、質量分析計に導入してΔ17O値を定量した。また、大気中のHONO濃度は、イオンクロマトグラフ法で定量した。札幌におけるHONOのΔ17O値は+6.9から+10.7‰の間であり、年間を通してほとんど一定であった。また、昼は夜よりも有意に高いΔ17O値を示した。「二次生成」由来のHONOの割合は,それぞれ日平均:約34±2%,昼:66±8%,夜:21±2%であった.このことから,札幌のHONOの主要な発生源は「直接排出」由来であることが示唆された.