日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS12] 大気化学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、町田 敏暢(国立環境研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、岩本 洋子(東京理科大学 理学部第一部)

17:15 〜 18:30

[AAS12-P07] FTIRで観測されたつくばにおけるエタンの経年変化

*村田 功1中島 英彰2,3森野 勇2 (1.東北大学大学院環境科学研究科、2.国立環境研究所、3.内閣府 総合科学技術・イノベーション会議事務局)

キーワード:フーリエ変換型分光計、温室効果気体、エタン

東北大学と国立環境研究所では、国立環境研究所所有の高分解能フーリエ変換型赤外分光計(FTIR)を用いて、つくばにおいて1998年12月より大気微量成分の地上観測による研究を行っている。今回報告するC2H6はCH4に次いで多く存在する炭化水素類であり、化学反応過程も類似した部分が多い。そのため、C2H6がCH4の濃度に影響することによる間接的な温室効果がある。また、汚染大気中のオゾン生成に寄与する他、C2H6の酸化過程で生成するアセトアルデヒド(CH3CHO)とNO2からPeroxyacetyl nitrate(PAN)が生成され、これが窒素酸化物の長距離輸送に寄与することから、越境大気汚染にも寄与する。発生源は天然ガス、バイオ燃料、バイオマス燃焼等人為起源が主であり、そのため地表付近の濃度は北半球では数ppbv程度である一方、南半球では数百pptvといった値が報告されている。しかし、FTIRによるスイス・ユングフラウでの観測 [Franco et al., 2015]ではモデルが観測値より30%近く低く、発生量を過小評価している可能性が高い。また、経年変化については近年若干減少傾向にあったものが2009年頃から増加に転じているが、原因はまだよく分かっていない。
FTIR観測の国際的グループであるNDACC/IRWGではこのようなC2H6の変動要因を解明するため、世界各地のFTIR観測の結果を総合して解析することになり、我々もつくばの観測結果を提供する予定である。解析にはロジャーズ法を用いたスペクトルフィッティングプログラムSFIT2を使用し、Franco et al., [2015]と同様のパラメータで行っている。ただし、解析に用いる波数領域は3μm付近の①2976.66 - 2977.059 cm-1と②2983.20 - 2983.50 cm-1のふたつで、Franco et al., [2015]で用いているもう一つの領域③2986.45 - 2986.85 cm-1は用いない。これは③の領域にはH2Oの強い吸収線があり、日本のような高湿度地域では解析に適さないためである。
現在は初期プロファイルの最適化が済んでおらずpreliminaryな解析ではあるが、2012年1年間について解析したところ、カラム全量で1.5 – 3.5 x 1016 molecule/cm-2程度となり、春に極大、秋に極小の季節変化が見られた。この値は同じくFTIRによる北海道での観測結果の1.76 - 3.36 x 1016 molecule/cm-2 [Zhao et al., 2002]と整合的で、やはりモデルから予測されるカラム全量よりかなり大きい。季節変化についてはユングフラウの結果も含めて一致する。この季節変化の要因はOHとの反応による消滅が夏季に卓越するためと考えられる。講演では経年変化についての解析結果から、ユングフラウと同様な減少から増加へのトレンド変化が見られるかを議論する。