10:00 〜 10:15
[AAS13-05] 太陽光パネルを用いた日射量稠密観測の可能性
キーワード:日射量、太陽光パネル、局地気象
1.はじめに
近年,局所的な集中豪雨による災害が頻繁に発生しており,豪雨の早期発見・予測のためのモニタリングが重要となっている.松尾ら1)は降水の前段階である雲に注目して,雲の有無や厚さは日射量の低減量と密接な関係があることを報告しており,このことから,日射量分布を把握できれば雲の分布を把握することができると考えられる.しかし,日射計は気象台など限られた場所にしかないため局地的な日射量分布の把握には適していない.日射量と太陽光パネルの発電量の変動には密接な関係があり,太陽光パネルをセンサーとして利用できれば,日射量分布を高密度で把握できると考えられる.本研究では実際の家屋や公共施設などの屋根への普及が進んでいる一般的な結晶系太陽光パネルを利用し,斜面など様々な角度に設置されることを想定して,太陽光発電量から日射量を推定する手法を提案することを目的とする.また松山平野内に設置された25か所の太陽光パネルの発電量から本手法を用いて日射量の空間分布を求め,直達散乱日射計のデータや天空カメラで撮影された雲の様子と比較することにより,本手法の有用性を明らかにした.
2.全天日射量の推定手法
愛媛大学の建物屋上に設置している太陽光パネル(Panasonic 社製 VBHN233SJ01A)2枚を南向き,傾斜角20°と30°で設置し計測を行った.太陽電池の最大出力が得られるよう電子負荷(Array,3721A)を自動制御して計測を行っている.同地点で全天日射計(Kipp & Zonen,CMP-3)を用いて全天日射量を観測,同型の全天日射計を太陽光パネルにも併設し,傾斜面の日射量を観測した.太陽光パネルの発電量はそれぞれ種類や大きさで出力が異なるため,発電量を最大出力で除したものを「出力比」と定義し,以降本研究ではこの用語を用いる.
傾斜して設置された太陽光パネルの出力比から傾斜面日射量(W/m2)を推定するために,ある晴れた日の実測の傾斜面日射量と太陽光パネルの出力比を用いて以下の式に示す換算係数(W/m2)を同定した.
(換算係数) = (実測傾斜面日射量) ÷ (太陽光パネルの出力比)
式(1)によって求められた換算係数を他の日の太陽光パネルの出力比に乗じて斜面日射量を推定した.
また,本研究では推定された傾斜面日射量を直散分離を利用することによって水平面日射量(全天日射量)へ変換を行う.全天日射量に含まれる散乱日射量の割合である散乱比には経験式に基づいた様々なモデルが存在するが,本研究ではErbs et al.の提案するモデルを用いた.傾斜したパネルから見える半球は全天の一部と地表面の一部から構成される.地表面における日射量の均一反射の仮定により地表面からの放射影響を全天日射量に置き換えることが出来る.また,散乱光の均一散乱の仮定により,天空からの散乱光は面積率の補正により推定した.直達光については角度による補正を行うだけである.そして直達光と散乱光の和をとって全天日射量を推定する.
3.結果とまとめ
南向き・傾斜角30°の太陽光パネルから求めた全天日射量の推定値と実測値の比較を行ったところ,雲による日射低減パターンが良く表現できており,また全天日射量の推定値と実測値は相関係数が0.99と十分に高い相関が得られた.また,晴れの日に比べ曇りの日の方が誤差は少なくなっている.本研究で用いたErbs et al.モデルが晴天時の散乱比を過小評価する傾向があることが原因であると考えられる.南向き・傾斜角20°の条件においても推定が可能であることが確認されている.
また松山平野内に設置された25か所の太陽光パネルの発電量を用いて全天日射量の空間分布を求め,直達散乱日射計のデータや天空カメラで撮影された雲の様子と比較した.快晴日あるいは曇天日(層雲が空を覆っている状況)では日射量の空間分布は小さいが,曇りがちの天候下(積雲が存在する状況)では上空の雲の状態に応じて日射量の空間的な変動が大きくなる傾向が認められた.日射量が局所的に小さく雲がかかっていると考えられる場所は,天空カメラで撮影した雲と合致していた.以上より,本研究で提案する太陽光パネルを用いた日射量の稠密モニタリングは,局地気象メカニズムの解明や降雨予報の参考データとしては十分な可能性を秘めていることが示された.
近年,局所的な集中豪雨による災害が頻繁に発生しており,豪雨の早期発見・予測のためのモニタリングが重要となっている.松尾ら1)は降水の前段階である雲に注目して,雲の有無や厚さは日射量の低減量と密接な関係があることを報告しており,このことから,日射量分布を把握できれば雲の分布を把握することができると考えられる.しかし,日射計は気象台など限られた場所にしかないため局地的な日射量分布の把握には適していない.日射量と太陽光パネルの発電量の変動には密接な関係があり,太陽光パネルをセンサーとして利用できれば,日射量分布を高密度で把握できると考えられる.本研究では実際の家屋や公共施設などの屋根への普及が進んでいる一般的な結晶系太陽光パネルを利用し,斜面など様々な角度に設置されることを想定して,太陽光発電量から日射量を推定する手法を提案することを目的とする.また松山平野内に設置された25か所の太陽光パネルの発電量から本手法を用いて日射量の空間分布を求め,直達散乱日射計のデータや天空カメラで撮影された雲の様子と比較することにより,本手法の有用性を明らかにした.
2.全天日射量の推定手法
愛媛大学の建物屋上に設置している太陽光パネル(Panasonic 社製 VBHN233SJ01A)2枚を南向き,傾斜角20°と30°で設置し計測を行った.太陽電池の最大出力が得られるよう電子負荷(Array,3721A)を自動制御して計測を行っている.同地点で全天日射計(Kipp & Zonen,CMP-3)を用いて全天日射量を観測,同型の全天日射計を太陽光パネルにも併設し,傾斜面の日射量を観測した.太陽光パネルの発電量はそれぞれ種類や大きさで出力が異なるため,発電量を最大出力で除したものを「出力比」と定義し,以降本研究ではこの用語を用いる.
傾斜して設置された太陽光パネルの出力比から傾斜面日射量(W/m2)を推定するために,ある晴れた日の実測の傾斜面日射量と太陽光パネルの出力比を用いて以下の式に示す換算係数(W/m2)を同定した.
(換算係数) = (実測傾斜面日射量) ÷ (太陽光パネルの出力比)
式(1)によって求められた換算係数を他の日の太陽光パネルの出力比に乗じて斜面日射量を推定した.
また,本研究では推定された傾斜面日射量を直散分離を利用することによって水平面日射量(全天日射量)へ変換を行う.全天日射量に含まれる散乱日射量の割合である散乱比には経験式に基づいた様々なモデルが存在するが,本研究ではErbs et al.の提案するモデルを用いた.傾斜したパネルから見える半球は全天の一部と地表面の一部から構成される.地表面における日射量の均一反射の仮定により地表面からの放射影響を全天日射量に置き換えることが出来る.また,散乱光の均一散乱の仮定により,天空からの散乱光は面積率の補正により推定した.直達光については角度による補正を行うだけである.そして直達光と散乱光の和をとって全天日射量を推定する.
3.結果とまとめ
南向き・傾斜角30°の太陽光パネルから求めた全天日射量の推定値と実測値の比較を行ったところ,雲による日射低減パターンが良く表現できており,また全天日射量の推定値と実測値は相関係数が0.99と十分に高い相関が得られた.また,晴れの日に比べ曇りの日の方が誤差は少なくなっている.本研究で用いたErbs et al.モデルが晴天時の散乱比を過小評価する傾向があることが原因であると考えられる.南向き・傾斜角20°の条件においても推定が可能であることが確認されている.
また松山平野内に設置された25か所の太陽光パネルの発電量を用いて全天日射量の空間分布を求め,直達散乱日射計のデータや天空カメラで撮影された雲の様子と比較した.快晴日あるいは曇天日(層雲が空を覆っている状況)では日射量の空間分布は小さいが,曇りがちの天候下(積雲が存在する状況)では上空の雲の状態に応じて日射量の空間的な変動が大きくなる傾向が認められた.日射量が局所的に小さく雲がかかっていると考えられる場所は,天空カメラで撮影した雲と合致していた.以上より,本研究で提案する太陽光パネルを用いた日射量の稠密モニタリングは,局地気象メカニズムの解明や降雨予報の参考データとしては十分な可能性を秘めていることが示された.