11:45 〜 12:00
[AAS13-11] 超高速レーダーによるWall Cloudを伴うメソサイクロンの時空間構造の観測
キーワード:メソサイクロン、竜巻、スーパーセル、フェーズドアレイレーダー
我が国の首都圏は竜巻発生頻度の高い地域として知られており、その監視・予測技術の向上は極めて重要な課題である。5~10分といった短時間に発生する竜巻の監視予測には、親雲内部の立体構造を連続的に観測し、前兆となる物理過程を効率よく検出する技術の確立が必要である。近年に開発されたフェーズドアレイレーダーは、60km圏内を100仰角に渡って30秒間でボリュームスキャンすることのできる超高速レーダーであり、竜巻の早期警戒・直前予測への貢献が期待される。気象研究所は茨城県つくば市にフェーズドアレイレーダーを整備し、2015年7月8日から首都圏における観測を実施しており、8月12日の夕方にはメソサイクロンを伴う発達した積乱雲の観測に成功した。当該システムは17:00ごろに発生し、西よりの背景風の下で南東へ移動しながら約2時間に渡り構造を維持したものであり、18:00ごろには気象研究所フェーズドアレイレーダーから5~10kmの距離にまで接近した。発生直後からシステムの南西端に低気圧性回転のメソサイクロンとそれに伴うフックエコーが存在し、竜巻の発生は報告されていないものの、しばしばその発生原因となるスーパーセルあるいはミニスーパーセルの典型的な特徴が認められた。とりわけ17:50~18:10にかけては、それらの構造強化とともにその下部に雲底の垂れ下がり構造であるWall Cloudが地上付近に向けて発達する様子が確認された。さらにその直前には、メソサイクロン後面のRFD(Rear Flank Downdraft)において、局所的な上昇流をその中心に伴う鉛直渦ペアが発生し、そのうちの低気圧性回転の成分がメソサイクロン及びフックエコーの構造強化につながる様子が捉えられた。これらの結果は、RFDに伴う傾圧性水平渦リングが上昇流によって局所的に持ち上げられ、それに伴って発生した鉛直渦ペアがメソサイクロンを強化した可能性を示唆する。本研究は、しばしば竜巻の発生原因となるスーパーセルの内部構造とその強化過程を、フェーズドアレイレーダーによって極めて詳細に観測可能であることを示すものである。