日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC20] 雪氷学

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 102 (1F)

コンビーナ:*大畑 哲夫(情報システム研究機構・国立極地研究所・国際北極環境研究センター)、堀 雅裕(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、鈴木 和良(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、杉山 慎(北海道大学低温科学研究所)、座長:縫村 崇行(千葉科学大学)

14:30 〜 14:45

[ACC20-04] 2015年ネパール・ゴルカ地震で発生したランタン地方大規模雪崩崩落の衛星観測

*永井 裕人1渡邉 学1冨井 直弥1田殿 武雄1鈴木 新一1 (1.国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

キーワード:ネパール・ゴルカ地震、雪崩、PALSAR-2、ALOS、WorldView-3、リモートセンシング

この研究では2015年4月25日に発生したネパール・ゴルカ地震によって誘発された、ネパール・ランタン地域における土砂を含んだ雪崩と思われる大規模な崩落について、衛星データを用いた実態把握を試みた。
陸域観測技術衛星「だいち2号」搭載の合成開口レーダPALSAR-2の観測によって取得された崩落前後の後方散乱強度分布とコヒーレンス低下を画像化し、崩落堆積物を抽出した。後方散乱強度の目視判読・手動抽出からは0.73 km2、コヒーレンス低下が集中する部分の自動抽出からは0.63 km2の範囲が得られ、これらはWorldView-3高分解能光学画像から確認できる1.09km2の堆積物範囲と位置的にも良い一致を示した。合成開口レーダは天候に関わらず観測が可能であり、ネパールをはじめとする湿潤な地域において特に有用である。この結果により、これまで地形条件から不得意とされてきた急峻な山岳地域においても、災害検出に利用できる可能性が示された。
次に、同地域を5月8日に観測したWorldView-3画像(カラー・分解能0.3m)から地表面を判読し、堆積物を15の区域に分類した(Fig. 1a)。堆積物には明暗複数の色の部分があり、斜面を流動した痕跡の有無も確認でき、流動よりも飛散によって広範囲に堆積したとみられる部分もある。これらの違いは、一回の均一な崩落ではなく、雪・氷・土砂を様々な割合で含む堆積物が、異なる供給源から連続して崩落したことを示唆する。
さらに、ALOS PRISMおよびWorldView-3から作製された崩落前後の数値標高モデルの差分をとることによって、崩落堆積物の体積は5244.5 ×103 m3と推定された。±5mの測定誤差を仮定すると、体積は3652.4×103 m3から10687.4×103 m3の範囲と考えられる。この大部分は河川を埋める形で河床沿いに集中しており(Fig. 1b)、平均層厚は約20mである。一方、比較的平坦な集落付近では層厚は5m以下と推定され、かなり薄く分布しているものと考えられる。今後、内部の雪氷が徐々に融解していくと予想されるが、定期的に地形を測量することにより、雪氷と土砂の割合が推定でき、供給源の考察や雪崩の数値シミュレーションにも寄与するデータが得られると期待される。