日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC20] 雪氷学

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 102 (1F)

コンビーナ:*大畑 哲夫(情報システム研究機構・国立極地研究所・国際北極環境研究センター)、堀 雅裕(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、鈴木 和良(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、杉山 慎(北海道大学低温科学研究所)、座長:縫村 崇行(千葉科学大学)

14:45 〜 15:00

[ACC20-05] アフリカ,ケニア山ルイス氷河の表面のクリオコナイトの特性

*宮内 謙史郎1植竹 淳2竹内 望1 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.国立極地研究所)

キーワード:クリオコナイト、東アフリカ

アフリカ大陸東部の赤道付近の高山では,年間を通して気温が低く,雨季に多くの降雪があるため氷河が存在している.近年,世界各地の氷河,氷床が縮小しているが,アフリカの熱帯氷河も急速に縮小していることが明らかとなっている.氷河縮小の原因には,地球温暖化に伴う気温上昇と考えられることが多いが,それに加えて表面が暗色化することによるアルベドの低下も重要であることが明らかとなっている.この暗色化の原因は,氷河表面に堆積した鉱物粒子や雪氷微生物に由来する有機物などから構成されているクリオコナイトと呼ばれる暗色の固体物質である.クリオコナイトを構成する有機物や鉱物粒子は,氷河上の微生物の働きにより暗色で球状の集合体を形成している(クリオコナイト粒).クリオコナイトは,世界中の氷河で見られるが,地域によって,色,量,形状,光学特性などが異なることが明らかとなっている.クリオコナイトは氷河表面のアルベドが低下することで,日射の吸収を増やして氷河の融解を促進する効果があるため,その特性を理解することは氷河の融解を考える上で重要となる.しかし,アフリカ大陸の熱帯地域に分布する氷河のクリオコナイトの特性について,詳しいことは明らかになっていない.そこで本研究では,アフリカ,ケニア共和国ケニア山に位置するルイス氷河において,裸氷域の下流部と上流部の2地点で採取されたクリオコナイトについて,光学,生物学的特性を分析し,東アフリカ熱帯域に位置する氷河のクリオコナイトの特性を明らかにすることを目的とした.
顕微鏡観察の結果,クリオコナイトの構成物は下流部と上流部に違いがあることが明らかになった.下流部のクリオコナイトは,鉱物粒子と糸状のシアノバクテリアが含むクリオコナイト粒が含まれていたのに対し,上流部では,鉱物粒子と糸状シアノバクテリアが含まれていたが,クリオコナイト粒は見られなかった.クリオコナイト中の有機物量の分析の結果,下流部で多く,上流部では少なくなった.クリオコナイトとクリオコナイト中の鉱物粒子の光学特性の分析の結果,下流部のクリオコナイトの反射率は,鉱物粒子と比べて低く一定であるのに対し,上流部のクリオコナイトは,鉱物粒子とほぼ同じ反射率,波形を示した.これは,有機物量の多い下流部では,有機物によって暗色化しており,上流部では,有機物による暗色化の影響はほとんどなく,鉱物粒子の色の影響を強く受けていることを示している.以上の結果から,下流部のクリオコナイトは,有機物量が多く,氷河表面のアルベドは,氷河上の微生物などの有機物による影響を強く受けているのに対し,上流部のクリオコナイトは,有機物量が少なく,氷河表面のアルベドは鉱物粒子の影響を強く受けていると示唆される.このクリオコナイトの特性の違いは,氷河のアルベドに影響を与えることから,上流部と下流部での融解量に違いを生むと示唆される.また,この特性の違いは,上流部と下流部の氷河環境が異なることを示しているかもしれない.そこで,発表では,クリオコナイトの特性が氷河の上流と下流で異なる原因について,氷河の物理的特性,化学的特性,生物学的特性についてさらに詳細な分析を進め,原因の解明を行っていく予定である.