日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC20] 雪氷学

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 102 (1F)

コンビーナ:*大畑 哲夫(情報システム研究機構・国立極地研究所・国際北極環境研究センター)、堀 雅裕(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、鈴木 和良(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、杉山 慎(北海道大学低温科学研究所)、座長:縫村 崇行(千葉科学大学)

15:00 〜 15:15

[ACC20-06] 日本とアラスカの山岳地域に見られる赤雪の雪氷藻類の細胞形態と色素構成の比較

*中島 智美1竹内 望1田邊 優貴子2辻 雅晴2植竹 淳2宮内 謙史郎1岡本 智夏1 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.国立極地研究所)

キーワード:雪氷藻類、赤雪、色素構成、アスタキサンチン

雪氷藻類とは,雪氷表面で繁殖する低温環境に適応した光合成微生物である.雪氷藻類が繁殖すると,雪氷表面を赤色や緑色などの様々な色に着色する.この現象は“赤雪”や“緑雪“として知られている.雪氷が着色するのは,雪氷藻類が持つ色素のためである.雪氷藻類の細胞中には複数の色素が含まれており,それぞれの色素に生理学的な役割がある.その色素の構成や割合は,藻類の種や繁殖条件によって変化すると考えられている.赤雪は日本各地の山岳地域の残雪上や世界中の融解期の氷河表面で見ることができるが,それぞれの地域における赤雪の色素構成の違いについてはまだほとんど知られていない.本研究では日本およびアメリカ合衆国アラスカ州の山岳地帯で赤雪のサンプルを採取し,それぞれの藻類細胞の形態や含有色素について明らかにし,各地域における藻類形態や色素構成と繁殖条件の関係を理解することを目的とした.
赤雪のサンプル採取は,2015年6, 7月に富山県立山の室堂周辺の残雪上と,8月にアラスカ山脈のグルカナ氷河の積雪域でそれぞれ行った.採取したサンプルは冷凍,冷蔵保存し,実験室に持ち帰った後,分析を行った.光学顕微鏡によって,藻類細胞の観察を行った.また別のサンプルを融解後,GF/Fフィルターで濾過したものをジメチルホルムアミド(DMF)に色素を抽出し,分光光度計を用いて吸光スペクトルの測定を行った.また抽出色素は,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて,詳細な色素構成の分析を行った.
藻類細胞の観察を行った結果,サンプル中には複数の形態の藻類細胞が含まれていることが明らかになった.赤色球形やオレンジ色球形,緑色球形細胞が高い割合を占める中で,緑色楕円形,オレンジ色楕円形細胞も存在した.外被が花弁のような形の赤色円形細胞と赤色楕円形細胞は,わずかな割合ではであるが,グルカナ氷河のサンプル中のみで観察された.赤雪から抽出した色素の吸光スペクトルの測定を行った結果,サンプルによってスペクトルが異なり,吸収極大の波長からタイプA~Dの4タイプに分けることができた.HPLCによって色素構成を分析した結果,すべてのスペクトルのタイプにクロロフィルb, アスタキサンチン,ルテインの3つの色素が明確に検出され,各タイプに含まれる色素の種類は同じであることがわかった.このうちアスタキサンチンは検出時間によってフリー体とエステル体の2種類があることがわかった.さらにこれらの各アスタキサンチンの含有量はスペクトルタイプによって異なり,タイプAとCはほとんどがエステル体,タイプBはフリー体とエステル体の両方,タイプDはほとんどがフリー体の構造であることがわかった.
日本の立山とアラスカの氷河の赤雪を比較すると,細胞形態はほとんどが両地域で共通していた一方,色素構成には違いがあることがわかった.立山はタイプA~Dの4種類すべて存在したが,アラスカの氷河はタイプAの1種類しかみられなかった.このことは,アラスカに比べて日本の赤雪は,藻類の多様性が高いことを示唆している.見た目には同じでも,日本とアラスカでは赤雪を構成する藻類の種,群集構造,多様性が異なる可能性が明らかになった.