日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC20] 雪氷学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*大畑 哲夫(情報システム研究機構・国立極地研究所・国際北極環境研究センター)、堀 雅裕(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、鈴木 和良(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、杉山 慎(北海道大学低温科学研究所)

17:15 〜 18:30

[ACC20-P11] 中央アジア天山山脈における氷河融解水の化学的特徴

*堀 燿一朗1竹内 望1Li Zhongqin2 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.中国科学院)

キーワード:生物地球化学、山岳氷河、融解水

アジア中央部の乾燥・半乾燥地域では,山岳氷河の融解水がこの地域の貴重な水源となっており,地域の生態系や人間社会に重要な役割を果たしている.乾燥地域における山岳氷河の水資源としての定量的な評価については現在まで多くの研究が行われてきた一方,山岳氷河の融解水の水質およびその河川水への影響に着目した研究はまだ限られている.そこで本研究では,融解期の中国天山山脈ウルムチNo.1氷河上の雪氷と融解水,および氷河からの流出水と流域河川水,降水についての化学成分の特徴を明らかにすること,また,氷河から河川水における化学成分の濃度と構成の変化の過程の要因を推定し,氷河の流域河川への影響を考察することを目的とした.
2015年8月の氷河上で,新雪,積雪,表面氷,融解水流,さらに氷河末端流出水,流域河川水,降水を採取し,これらのサンプルの主要化学成分の分析を行った.分析の結果,ほとんどの化学成分は,氷河上の雪氷や融解水に比べ,氷河流出水および流域河川水で濃度が高かった.特に大きく異なった成分は,Mg2+,Ca2+,SO42,K+で濃度は約6.5倍から19倍の差があった.Na+,Cl,NO3は,氷河と河川水の差は比較的小さく,1.3から3.0倍程度であった.NH4+は,唯一例外的に氷河上の雪氷や融解水の濃度の方が高く,氷河流出水および流域河川水では検出されなかった.これらの結果は,化学成分は単に下流域に行くにしたがって濃度が高くなるのではなく,各成分の起源や生物地球化学過程によって,挙動が異なることを示している.各化学成分の濃度変化の特徴から、氷河上から流域河川にかけての濃度変化の要因は、氷河上の鉱物の風化、氷河底部の流出水、微生物の活動によるものである可能性が示唆された.また、高度別に氷河表面氷と融解水流(小)の濃度を比較したところ,表面氷では,Mg2+,Ca2+,NO3で,融解水流(小)では,Cl,Na+,Mg2+,NO3で有意差が見られた.この濃度差は、古い氷体内の成分、高度別のダスト量の差、微生物活動などの影響を受けていることを示唆している.以上のことから,氷河から流出する融解水の化学成分濃度は,流域河川水および現在の降水とは異なり,古い氷体の融解,氷河上の鉱物粒子の風化,微生物活動などのプロセスによって決定されたものであると考えられる.氷河融解水の流出量や氷河上の生物地球化学過程の変化は,河川水の水質に大きな影響を与える可能性がある.