日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC21] アイスコアと古環境変動

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 102 (1F)

コンビーナ:*川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、大藪 幾美(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、座長:竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)

09:00 〜 09:15

[ACC21-01] 北東グリーンランド氷流での国際氷床深層掘削プロジェクトによる気候・氷床変動の研究

*東 久美子1,2川村 賢二1,2藤田 秀二1,2奥野 淳一1,2阿部 彩子3グレーベ ラルフ4齋藤 冬樹5本間 智之6東 信彦6榎本 浩之1,2本山 秀明1,2Dahl-Jensen Dorthe7 (1.国立極地研究所、2.総合研究大学院大学、3.東京大学、4.北海道大学、5.海洋研究開発機構、6.長岡技術科学大学、7.コペンハーゲン大学)

キーワード:EGRIP、グリーンランド、アイスコア

グリーンランド氷床は,近年,夏期の融解が内陸部まで及んだり,海への氷の流出量が増加するなど,急激な変化を示している.グリーンランド氷床の変動は,海水準変動にも直接関わるため,そのメカニズムの解明が急務となっている.グリーンランドで掘削された氷床コアを解析することにより,過去の氷床表面融解や表面質量収支の変化に関する情報が得られているが,それだけでなく,最近はグリーンランドの多地点で掘削された氷床コアの解析データを統合し,モデル研究と組み合わせることにより,過去の氷床高度を復元することが可能になってきた.しかし,これまでのグリーンランド氷床コア掘削は,掘削地点での気候・環境変動の復元を目的としており,可能な限り水平方向の流動速度が小さい地点で掘削を行なっていたため,氷床流動についての詳細な情報を得ることができなかった.
氷床の底面滑りや氷の変形メカニズムの解明は,グリーンランド氷床の変動予測,更には海水準変動予測に不可欠であるため,デンマークのコペンハーゲン大学が中心となって,グリーンランド氷床変動の研究を第一の目的とする東グリーンランド深層氷床掘削プロジェクト(EGRIP計画)が立案された.EGRIP計画では,グリーンランド最大の氷流である「北東グリーンランド氷流(North East Greenland Ice Stream)」の上流部で掘削を行う計画である.水平方向の流動速度が年間数十メートルと推定されているEGRIP地点1)での氷床コア掘削・解析が実現できれば,氷床流動についての新たな知見が得られると期待できる.EGRIP計画の第二の目的は,完新世初期の詳細な気候・環境変動を復元することである.この時代は現在よりも温暖であったと推定されており,温暖化した将来の地球の気候・環境を予測するためのヒントとなる時代であるが,これまで詳細な分析データがなかったため,EGRIP計画により詳細な研究を実施する.更に,最終氷期に生じた急激な気候変動のメカニズムについても研究を行う計画である.
現在のところ,デンマーク,日本,アメリカ,ドイツ,ノルウェー,フランス,スイスがEGRIPに参加する予定である.2015年4月にEGRIP掘削地点で掘削を実施するための設営作業を開始し,2015年から掘削開始を予定している.EGRIP地点で岩盤までのアイスコア掘削,掘削孔の観測,底面の物質と融解水の採取,またEGRIP及びその周辺地域で測量及び氷床表面流速の観測等を計画している.掘削したアイスコアは,EGRIPで現場解析を実施すると共に,各国へ持ち帰ったサンプルを用いた様々な分析を実施する.また,現場観測とアイスコアの分析だけでなく,氷床モデル,気候モデルの研究も計画している.2015年10月末にコペンハーゲンで第1回EGRIP運営会議が開催され,掘削・観測の年次計画概要が示された他,各国の研究計画が提案された.また,EGRIPコアやEGRIPでの観測に関連した研究を実施するため,分野ごとのコンソーシアムが置かれることが決まった.JpGUではEGRIPの研究計画やプロジェクトの進行状況に関する最新情報について報告を行う.