日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG15] 沿岸海洋生態系──2.サンゴ礁・海草藻場・マングローブ

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 301A (3F)

コンビーナ:*宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻)、梅澤 有(長崎大学)、座長:宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、田中 義幸(国立研究開発法人海洋研究開発機構 むつ研究所)

15:00 〜 15:15

[ACG15-06] リン酸の酸素安定同位体比を含む生物地球化学的指標を用いたフィリピン・ボリナオおよびアンダ沿岸の養殖海域における継続的な富栄養化状態の原因解明

Ferrera Charissa1宮島 利宏2San Diego-McGlone Maria Lourdes3森本 直子2梅澤 有4Herrera Eugene5土屋 匠1吉開 仁哉1灘岡 和夫1、*渡邉 敦1 (1.東京工業大学大学院情報理工学研究科、2.東京大学大気海洋研究所、3.フィリピン大学ディリマン校MSI、4.長崎大学水産学部、5.フィリピン大学ディリマン校工学部)

キーワード:リン、富栄養化、餌、栄養塩比、海域養殖、リン酸の酸素安定同位体比

フィリピン・ボリナオ沿岸における長期栄養塩観測データは、2002年に同海域でミルクフィッシュの養殖生簀数に規制が設けられたにも関わらず、富栄養化状態が継続していることを示している。この規制は、同年にボリナオで発生した養殖魚の大量斃死が契機となり、ボリナオ沿岸で課された。本研究は規制後も続く富栄養化状態と度重なる赤潮、貧酸素化、養殖魚の斃死の関連性を解明することを目的に、ボリナオおよび隣接するアンダ海域を対象に窒素(N)およびリン(P)の動態を調べた。
水柱、堆積物中の栄養塩類に関する時空間分布、および養殖海域に対する負荷源として想定されうる各種起源物質中の栄養塩類を詳細に解析した。その結果、養殖海域は溶存態無機窒素(DIN。特にアンモニア態窒素)、溶存態無機リン(DIP)濃度が高いことがわかり、これは非摂餌・未消化の餌や魚の排泄物の分解が主な原因と考えられる。回帰した栄養塩はN/P比が約6.6となっており、レッドフィールド比より大幅に低くなっていた。DIPは雨季より乾季の方が高い傾向が認められ、これは回帰した栄養塩が流況により乾季に海域内にたまりやすいためと考えられる。過去の衛星画像を解析したところボリナオ海域では養殖生簀の数が規制内でほとんど変化していなかったのに対し、アンダ海域では増加傾向にあり、この海域の養殖活動に伴う有機物やPに富んだ栄養塩類が乾季の残差流の影響でボリナオ海域に輸送されたと考えられる。こうした諸要因により、ボリナオではDIPが富み、Nが制限栄養素となった状態が継続しており、雨季に河川等からNが多く供給されると散発的に植物プランクトンの増殖を引き起こす下地を作っていると考えられる。
リンの起源をより詳しく調べるために、環境試料中のリン酸の酸素安定同位体比(δ18Op)を解析したところ、河川水と養殖で用いられる餌が、養殖海域に対する2つの起源物質として特徴的な値を示した(各々、14.4 ± 0.2 ‰と21.8 ± 0.4 ‰。平均±標準偏差)。堆積物の間隙水中のDIPは21.3 ± 0.2 ‰と餌と同程度の値を示し、餌の分解がDIPの主な起源となっていることが示唆された。養殖場の水中のDIPも概ね餌に近いδ18Opを示したが、季節および潮汐による影響で変動することも明らかになった。