日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG15] 沿岸海洋生態系──2.サンゴ礁・海草藻場・マングローブ

2016年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 203 (2F)

コンビーナ:*宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻)、梅澤 有(長崎大学)、座長:渡邉 敦(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻)、梅澤 有(長崎大学)

16:30 〜 16:45

[ACG15-11] サンゴ礁生態系における懸濁粒子・沈降粒子の炭素・窒素安定同位体比時空間分布

*宮島 利宏1森本 直子1田中 泰章2,3渡邉 敦4中村 隆志4山本 高大2,5灘岡 和夫4 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.東京工業大学、3.Faculty of Science, Universiti Brunei Darussalam、4.東京工業大学 環境・社会理工学院、5.Environment and Life Science Center, Kuwait Institute for Scientific Research)

キーワード:粒子状有機物、サンゴ礁、海草藻場、沈降フラックス、起源解析

サンゴ礁生態系は、典型的には外洋側からサンゴの優占する礁斜面、サンゴと藻類の混在する礁嶺・礁原、砂地を中心とする礁池・礁湖、海草藻場などの地形的に区別できるコンパートメントから構成されている。サンゴ礁は貧栄養な海水中に成立するため、生態系と外界との物質交換、および生態系内のコンパートメント間の相互作用におけるキャリアとして、粒子状有機物(POM)の重要性が極めて高い。POMは懸濁物食者等に捕獲されてエネルギー源となるだけでなく、窒素やリン、珪素、鉄などの重要な栄養素の輸送担体ともなっている。また沈降して堆積物に移行することにより、生態系の炭素隔離機能にも貢献している。本研究では、特にサンゴ礁内のコンパートメント間の相互作用においてPOMのもつ役割を解明するため、石垣島・白保地先および吹通川河口沖(伊土名地先)の2箇所のサンゴ礁においてPOMの濃度、炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)、沈降フラックスを調査し、リーフ内の異なるハビタット間で比較した。また季節変動・日周変動に関する調査を行った。サンゴ礁周辺外洋域における海水中のPOM濃度は5 µmol C L–1未満であるが、サンゴ礁内では濃度が高まり、特に海草藻場では50 µmol C L–1に達することがあった。外洋水POMのδ13Cは-24‰〜-18‰, δ15Nは+3‰〜+5‰であるのに対して、サンゴ群落上の海水中のPOMではδ13Cがやや高く、δ15Nは若干低めになっていた。サンゴ群落上で夜間に採集されるPOMのδ15Nは+7‰〜+9‰と特に高くなっていた。また海草藻場上の海水に含まれるPOMではδ13Cが高く、-10‰を越える場合もあった。沈降フラックスは場所と時期による変動が大きいが、概ね夏季(8月)の方が冬季(1月)より多かった。サンゴ群落で捕集される沈降粒子は、外洋性POMに比べてδ13Cが明瞭に高く、δ15Nは低い傾向が認められ、またδ13Cは夏季の方が冬季より高かった。沈降粒子のPOC/PN比は6〜9の範囲で、懸濁粒子とほぼ重なっていた。これとは別に、サンゴ礁内のPOMの主要な生産者となる生物(造礁サンゴ・褐虫藻・大型藻類・海草類・海草葉上付着藻類)および消費者となる動物種のδ13Cとδ15Nを調査した。本発表ではこうしたデータの比較に基づいて、特に外洋からサンゴ群落への物質流入、サンゴ群落と海草藻場との間の物質交換、ならびに底生動物群集の栄養構造における懸濁粒子と沈降粒子の役割について考察する。