日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG23] 沿岸海洋生態系─1.水循環と陸海相互作用

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 301A (3F)

コンビーナ:*小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(総合地球環境学研究所)、小野 昌彦(産業技術総合研究所)、座長:小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)、小野 昌彦(産業技術総合研究所)

09:30 〜 09:45

[ACG23-02] 陸水由来の栄養塩が海域生態系に与える影響の多様性

★招待講演

*梅澤 有1 (1.長崎大学)

キーワード:海洋生態系、陸水流入、水産資源

栄養塩を豊富に含む地下水や河川水の海域への流入は、浮遊性藻類や固着性藻類の増殖を促すことで、海域の濾過食動物や、藻食魚類等の水産生物に正の効果を及ぼすことが見込まれる。しかしながら、陸水由来の栄養塩によって成長を促される一次生産者の種類と現存量は、流入地点での基盤特性、滞留時間、栄養塩量、光量(濁度)、塩分、休眠期細胞の存在量等によって大きく変化する。また、増殖した植物プランクトンの種類や量によっても、二枚貝や動物プランクトンの増殖をもたらすものから、毒性を持って魚介類の斃死を引き起こすものまで多様になる。
陸水や雨水がもたらす栄養塩供給を受けて初夏に増殖した植物プランクトンは、易分解性の有機物であることから、躍層下に沈降しバクテリアの分解作用を受けて貧酸素水塊の形成にも寄与することになる。この時、植物プランクトンの種類や環境条件に応じて、窒素、リンだけでなく、ケイ素や硫黄化合物の含有量が異なり、分解速度および酸素消費量が大きく異なることも示唆されている。また、貧酸素水塊は、魚介類の斃死を引き起こすものであるが、貧酸素水塊時に形成される嫌気性のバクテリアマット自体は、従属栄養生物に利用されて、高次生産に寄与する可能性を含んでいる。
このように、陸水由来の栄養塩の流入から始まる連鎖は、水産資源への影響を考えた場合に非常に多様になっているため、流入量・場所だけでなく、海域環境と合わせて長い時間スケールで評価することが必要とされる。