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[ACG23-06] 日本海側の流域圏で進行する越境汚染ストレス:流域からの窒素流入負荷量の増大が若狭湾沿岸生態系に及ぼす影響の評価
キーワード:堆積速度、富栄養化、窒素沈着、日本海
深刻化する東アジア地域の大気汚染が,我が国の森から海にいたる生態系連環を著しく攪乱している.大量の窒素化合物が沈着する日本海側では,森林の窒素飽和が問題となり,一部の河川水の窒素濃度がこの30年間で著しく上昇している.窒素濃度の上昇は,沿岸海域への窒素負荷量の増大を招くため,沿岸海洋生態系にも何らかの影響を及ぼしていることが容易に想像できるが,その実態は明らかにされていない.本研究では,窒素濃度が経年的に増加している河川が陸水流入を支配する若狭湾の枝湾(小浜湾)をモデルフィールドとし,越境大気汚染に端を発する窒素負荷量の増大が,沿岸生態系に及ぼしている影響を現在から過去に遡って評価した.小浜湾から採取した3本の堆積物コアに含まれる210Pbexから推定した平均堆積速度は,1960-1980年代頃には0.13 g cm-2 yr-1と小さかったが,近年では約4倍の0.55 g cm-2 yr-1まで増加していた.安定同位体比を用いて堆積有機物の起源を推定したところ,流入河川から離れた2本の堆積物コアは主に内部生産有機物から構成されており,その起源は経年的にほとんど変化していなかった.湾内の生物生産環境を強く反映していると考えられたこれら2本の堆積物コアでは,流入河川の全窒素濃度の経年変化に同調するように,有意な増加傾向が認められた.これらの結果から,大気沈着に起因する窒素負荷量の経年的な増加は,内部生産有機物量の増大,ひいては堆積速度の増大を招いるものと考えられる.このような明瞭な関係性が認められたのは,過去の小浜湾の一次生産過程が窒素によって制限されていたことに加え,護岸や埋め立てにより著しく減少した藻場による栄養塩吸収機能の損失も,水柱の内部生産有機物量の増大に拍車をかけたものと推察される.