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[ACG23-07] 有明海奥部における夏季の溶存酸素濃度とCOD収支の長期変化
キーワード:長期変動、溶存酸素、COD、ボックスモデル、有明海
【はじめに】
現在、有明海奥部では毎年夏季に貧酸素水塊が発生している。貧酸素水塊の発生はサルボウなど二枚貝の斃死を引き起こすため、問題になっている。閉鎖性内湾における長期的な貧酸素化進行の原因の1つとしては、有機物分解による酸素消費量の増加が疑われる。有明海奥部における有機物量の指標としては、COD(化学的酸素要求量)のモニタリングが行われてきた。そこで、同時に測定された溶存酸素濃度とCODのデータを解析し、夏季の底層溶存酸素濃度(DO)の長期変化とその原因を明らかにすることを試みた。
【資料と方法】
用いたデータは佐賀県・福岡県の浅海定線調査データで、データ期間は1972年から2014年である。さらに、湾奥に流入する4つの1級河川(筑後川・矢部川・嘉瀬川・六角川)の流量およびCOD負荷量を解析に用いた。河川流量・COD負荷量は、手塚(2013)に2014年までのデータを追加したものを用いた。有明海奥部の夏季の底層溶存酸素濃度は、出水による成層強度変化の影響を受けて大きく年々で変動する。そこで、長期変化を明らかにするために、底層DOについて速水ら(2006)の方法で年々の成層強度変動の影響を除いた貧酸素ポテンシャル(DOs)を求め、CODと比較した。さらに、CODの長期変化の原因を明らかにするために、佐賀県・福岡県海域奥部を対象としたボックスモデル解析を行った(Fig.1)。解析期間は1981~2014年である。まず、ボックス1・2に関して、各月について連続する11年間の平均塩分を求め、その値と河川流量からボックス1の塩分収支を計算した。その結果から、ボックス1・2間の海水交換による流量フラックスqを得た。qと河川流量、河川からのCOD負荷量、および連続する11年間の各月のボックス内の平均CODから、ボックス1のCOD収支を計算した。その結果から、ボックス1内のCODの正味の内部生産量Rを得た。これは、植物プランクトンなどによる有機物生産から、ベントス・動物プランクトンなどによる捕食、バクテリアによる分解を除いた量に相当する。このような解析を1年ずつずらして全期間について実施した。
【結果と考察】
佐賀県海域で平均した7月のDOs は1970年代から90年代初めにかけて低下し、その後は横ばいからやや回復傾向であった(Fig.2)。海域平均した底層CODは1970年代から90年代初めにかけて増加し、その後はやや減少していた(Fig.2)。DOsとCODには強い負の相関があり、DOs と11年移動平均したCODの相関係数は-0.94であった。
全期間を平均すると、ボックス1の平均CODは夏季と冬季に高くなる二峰型の季節変化を示した。陸域からのCOD負荷量は7月に特に高くなっていた。海水交換・移流による流出は全ての月で負の値で、湾奥部は常にCODの流出源となっていた。正味の内部生産量は7月のみ負の値で、他の月は全て正の値であった。これは、7月については海域内の植物プランクトンなどによる有機物生産に加えて大量の陸域からの有機物負荷があったため、海域内での有機物生産よりも消費量の方が上回ったためと考えられる。
7・8月のボックス1の平均CODは、佐賀県海域底層と同様に1980年代から90年代初めにかけて増加していた(Fig.3)。7・8月のCOD増加の原因としては、1)初期値(6月の値)の増加、2)内部生産量の増加、3)海水交換・移流による流出の減少、4)陸域からの負荷量の増加が挙げられる。このうち、海水交換による流出量は減少傾向にあり、移流による流出量と陸域負荷は横ばいであった(Fig.4)。初期値は1986年から88年にかけて増加したが、その後は減少していた。一方で、正味の内部生産量は増加していた。これは、長期的に海域で生産された有機物の増加が生じたか、有機物の分解者である植食者の減少が生じたことを示す。同時期に佐賀・福岡県海域の二枚貝漁獲量は減少していた。また、1977年には有明海奥部には546haのカキ礁が分布していたが、漁場整備のために東部から中部海域のカキ礁は除去され、現在は161haまで減少してしまっている(水産庁,2011)。これらは、植食者の減少が実際に起きていたことを示す。陸域からのCOD負荷が増加していないにもかかわらず、海域のCODが増加していたことは、このCOD増加分が海域で生産された有機物によるものであることを示唆する。さらに、植食者の減少と正味のCOD内部生産量の増加、底層DOの減少が同期して起きていたことは、1980年代から90年代初めにかけての有明海奥部では、二枚貝類の減少→植物プランクトン増加→底層の有機物量増加→貧酸素化進行→二枚貝類の減少という負のフィードバックが生じていた可能性が高いことを示している。
現在、有明海奥部では毎年夏季に貧酸素水塊が発生している。貧酸素水塊の発生はサルボウなど二枚貝の斃死を引き起こすため、問題になっている。閉鎖性内湾における長期的な貧酸素化進行の原因の1つとしては、有機物分解による酸素消費量の増加が疑われる。有明海奥部における有機物量の指標としては、COD(化学的酸素要求量)のモニタリングが行われてきた。そこで、同時に測定された溶存酸素濃度とCODのデータを解析し、夏季の底層溶存酸素濃度(DO)の長期変化とその原因を明らかにすることを試みた。
【資料と方法】
用いたデータは佐賀県・福岡県の浅海定線調査データで、データ期間は1972年から2014年である。さらに、湾奥に流入する4つの1級河川(筑後川・矢部川・嘉瀬川・六角川)の流量およびCOD負荷量を解析に用いた。河川流量・COD負荷量は、手塚(2013)に2014年までのデータを追加したものを用いた。有明海奥部の夏季の底層溶存酸素濃度は、出水による成層強度変化の影響を受けて大きく年々で変動する。そこで、長期変化を明らかにするために、底層DOについて速水ら(2006)の方法で年々の成層強度変動の影響を除いた貧酸素ポテンシャル(DOs)を求め、CODと比較した。さらに、CODの長期変化の原因を明らかにするために、佐賀県・福岡県海域奥部を対象としたボックスモデル解析を行った(Fig.1)。解析期間は1981~2014年である。まず、ボックス1・2に関して、各月について連続する11年間の平均塩分を求め、その値と河川流量からボックス1の塩分収支を計算した。その結果から、ボックス1・2間の海水交換による流量フラックスqを得た。qと河川流量、河川からのCOD負荷量、および連続する11年間の各月のボックス内の平均CODから、ボックス1のCOD収支を計算した。その結果から、ボックス1内のCODの正味の内部生産量Rを得た。これは、植物プランクトンなどによる有機物生産から、ベントス・動物プランクトンなどによる捕食、バクテリアによる分解を除いた量に相当する。このような解析を1年ずつずらして全期間について実施した。
【結果と考察】
佐賀県海域で平均した7月のDOs は1970年代から90年代初めにかけて低下し、その後は横ばいからやや回復傾向であった(Fig.2)。海域平均した底層CODは1970年代から90年代初めにかけて増加し、その後はやや減少していた(Fig.2)。DOsとCODには強い負の相関があり、DOs と11年移動平均したCODの相関係数は-0.94であった。
全期間を平均すると、ボックス1の平均CODは夏季と冬季に高くなる二峰型の季節変化を示した。陸域からのCOD負荷量は7月に特に高くなっていた。海水交換・移流による流出は全ての月で負の値で、湾奥部は常にCODの流出源となっていた。正味の内部生産量は7月のみ負の値で、他の月は全て正の値であった。これは、7月については海域内の植物プランクトンなどによる有機物生産に加えて大量の陸域からの有機物負荷があったため、海域内での有機物生産よりも消費量の方が上回ったためと考えられる。
7・8月のボックス1の平均CODは、佐賀県海域底層と同様に1980年代から90年代初めにかけて増加していた(Fig.3)。7・8月のCOD増加の原因としては、1)初期値(6月の値)の増加、2)内部生産量の増加、3)海水交換・移流による流出の減少、4)陸域からの負荷量の増加が挙げられる。このうち、海水交換による流出量は減少傾向にあり、移流による流出量と陸域負荷は横ばいであった(Fig.4)。初期値は1986年から88年にかけて増加したが、その後は減少していた。一方で、正味の内部生産量は増加していた。これは、長期的に海域で生産された有機物の増加が生じたか、有機物の分解者である植食者の減少が生じたことを示す。同時期に佐賀・福岡県海域の二枚貝漁獲量は減少していた。また、1977年には有明海奥部には546haのカキ礁が分布していたが、漁場整備のために東部から中部海域のカキ礁は除去され、現在は161haまで減少してしまっている(水産庁,2011)。これらは、植食者の減少が実際に起きていたことを示す。陸域からのCOD負荷が増加していないにもかかわらず、海域のCODが増加していたことは、このCOD増加分が海域で生産された有機物によるものであることを示唆する。さらに、植食者の減少と正味のCOD内部生産量の増加、底層DOの減少が同期して起きていたことは、1980年代から90年代初めにかけての有明海奥部では、二枚貝類の減少→植物プランクトン増加→底層の有機物量増加→貧酸素化進行→二枚貝類の減少という負のフィードバックが生じていた可能性が高いことを示している。