日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG23] 沿岸海洋生態系─1.水循環と陸海相互作用

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(総合地球環境学研究所)、小野 昌彦(産業技術総合研究所)

17:15 〜 18:30

[ACG23-P02] 水の安定同位体比から見たルソン島東方海域(黒潮源流域)の水塊構造の特徴

渡邉 敦1、*宮島 利宏2Villanoy Cesar3San Diego-McGlone Maria Lourdes3Gordon Arnold L.4 (1.東京工業大学 環境・社会理工学院、2.東京大学 大気海洋研究所、3.Marine Science Institute, University of the Philippines、4.Lamont-Doherty Earth Observatory, Columbia University)

キーワード:海水の酸素安定同位体比、鉛直構造、淡水流入、pH、ラモン湾

黒潮源流域に位置するフィリピン・ルソン島東岸のLamon湾とその外洋側海域(14°-19°N, 122°-126°E; Fig. 1a)において海水の酸素・水素安定同位体比(δ18O・δ2H)の鉛直分布と平面分布の観測を行った。観測は2012年4〜5月に実施された調査船Roger Revelle号の航海において行われた。試料はガラスバイアルに密封して持ち帰り、CRDS式水同位体比分析計によりδ18Oとδ2Hの測定を行った。鉛直分布では、表層から水深100〜200 mに位置する回帰線水(NPTW)に由来する塩分極大に向けてδ18Oが上昇し、極大値1.5〜2.0‰を示した。その後、水深500 m付近に位置する北太平洋中層水(NPIW)に由来する塩分極小に向けてδ18Oが低下し、塩分極小以深では4000 mまで-1〜0‰の間のほぼ一定の値を示した。このように鉛直分布がほぼ海洋循環に基づく水塊構造に対応しているのに対し、表層水のδ18Oを見ると、陸域側(-0.3‰)から外洋側(+0.6‰)に向かって上昇する明瞭な勾配を示した。塩分との強い正の相関があり(p < 0.0001; Fig. 1b)、表層水の平面分布が陸域からの淡水流入に強く支配されていることが示唆された。δ2Hの鉛直・平面分布はδ18Oと同一のパターンを示したが、δ18Oに対するδ2Hの相対変動を表すdeuterium excessを比較すると、陸域に近い表面水で微増する傾向が確認された。これはdeuterium excessの高い河川水の流入を反映したものと考えられる。Gordon et al. (2014)によって明らかにされたこの海域の海水流動パターンと比較すると、黒潮源流の流軸とルソン島とに挟まれた半定常的な低気圧渦の存在する海域において、表層水中の塩分とδ18Oが周辺海域より明瞭に低く、またpHが有意に低く、deuterium excessが有意に高くなっていた(p < 0.003; Fig. 1c)。このことは、この海域において定常渦の存在により表層水の滞留時間が長くなるために淡水流入の影響が累積しやすいこととともに、黒潮の存在によって淡水の影響が及ぶ範囲が限定されていることをも示している。一方、黒潮はpHの低いこの海域の表層水を一部巻き込みながら形成されるにもかかわらず、黒潮源流部の表層pHは上流の海域に比べてわずかに高い傾向があった(8.134 vs. 8.126, p = 0.0329; Fig. 1c)。黒潮の形成過程において、表層水のpHを高く維持する何らかの生物地球化学的プロセスが作用している可能性がある。