日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG24] 北極域の科学

2016年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 304 (3F)

コンビーナ:*川崎 高雄(国立極地研究所)、森 正人(東京大学大気海洋研究所)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)、津滝 俊(国立極地研究所国際北極環境研究センター)、羽角 博康(東京大学大気海洋研究所)、座長:森 正人(東京大学大気海洋研究所)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)

12:00 〜 12:15

[ACG24-11] トップダウン法とボトムアップ法によるCO2フラックス推定値の比較 - シベリア・ヤクーツクでの試み -

*高田 久美子1,2,3Patra Prabir3Belikov Dmitry2,1小谷 亜由美4森 淳子3,1GTMIP グループ市井 和仁3佐伯 田鶴3丹羽 洋介5斉藤 和之3太田 岳史4Maksyutov Shamil2町田 敏暢2Ganshin Alexander6,7Zhuravlev Ruslan6,7杉本 敦子8青木 周司9 (1.国立極地研究所 国際北極環境研究センター、2.国立環境研究所地球環境研究センター、3.海洋研究開発機構、4.名古屋大学、5.気象庁気象研究所、6.Tomsk State University、7.Central Aerological Observatory、8.北海道大学、9.東北大学)

キーワード:CO2収支、寒帯林帯、トップダウン法とボトムアップ法、タワー観測

森林生態系の炭素収支が気候変動において重要な役割を担っているとともに大きな不確実性があることは広く認識されており、炭素収支に関するボトムアップ推定とトップダウン推定を比較することによって両者の不確実性を低減しようとする試みは、近年精力的に進められている。GRENE事業北極気候変動分野(以下、GRENE北極事業)では、観測データが乏しいシベリア域をはじめとした北極域で陸域観測や大気観測が実施されるとともに、プロセスモデルや逆解析モデルによる地上CO2フラックスの推定も実施されている。
GRENE北極事業の陸域の研究課題では環北極域でエネルギー・水・炭素循環の観測を多地点で実施しており、その中の4地点で複数の陸域のプロセスベースモデル(陸面過程モデル)によるエネルギー・水・炭素フラックスの相互比較(GTMIP)(Miyazaki et al., 2015) を進めている。一方、温室効果気体の研究課題では航空機や地上ステーションでのCO2濃度の高精度観測を実施するとともに、逆解析モデルによる地域スケールでのCO2地上フラックスの推定を実施している。今回はNet Ecosystem Production (NEP) またはNet Biome Productivity (NBP) に相当する炭素収支量を対象として、ヤクーツクでの陸域タワー観測に基づくCO2フラックス値、陸面過程モデルのCO2フラックス推定値、逆解析モデルによるヤクーツク周辺500km四方のCO2フラックス推定値について、1980年から2012年の月平均値で比較した(タワー観測は2004-2011年)。
その結果、タワー観測、陸面過程モデル、逆解析モデルの値は概ね一致し、6-8月に大きな吸収、他の月は小さな放出または吸収となる季節変化の特徴が共通して見られた。経年変動は、夏季平均値(6-8月)のほうが年間値よりもばらつきが小さい傾向が認められた。冬季はもともとフラックス値が小さい上に、不確実性の大きい呼吸過程が支配的であるため、冬季の推定値のばらつきが大きく、年間値もその影響を受けたと考えられる。夏季平均値の年々変動は、幾つかのモデルで観測と似た傾向が認められるが、一致・不一致の原因には様々なものが考えられる。第一には、それぞれの推定方法の代表的な水平スケールの違いがある。また、森林火災の考慮の仕方や影響の受け方が違うことも不一致の原因の一つとして考えられる。タワー観測では湿潤年・高温乾燥年などの特徴的な気象条件と対応したNEPの変動が見られるが、モデルでは必ずしもそれらの特徴が捉えられていない。これらを個別に調査して一致・不一致の原因を明らかにすることにより、CO2収支の不確実性の低減していくことができる。