日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG24] 北極域の科学

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 304 (3F)

コンビーナ:*川崎 高雄(国立極地研究所)、森 正人(東京大学大気海洋研究所)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)、津滝 俊(国立極地研究所国際北極環境研究センター)、羽角 博康(東京大学大気海洋研究所)、座長:佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)、津滝 俊(国立極地研究所国際北極環境研究センター)

13:45 〜 14:00

[ACG24-12] アラスカの大規模森林火災期間中の気象条件

*早坂 洋史1田中 博2ピーター ビーニック3 (1.NPO北海道水文気候研究所、2.筑波大学、3.アラスカ大学)

キーワード:ボーフォート高気圧、ジェット気流蛇行、ロスビー砕波、広域森林火災、MODISホットスポット

世界の森林火災の頻発地域は、衛星データのホットスポット(HS)を使った世界森林火災地図で把握できる。大規模で広範囲な森林火災地帯の1つであるアラスカの北方林(タイガ、針葉樹林帯)は、面積が約0.47×106 km2(アラスカ州面積の32%)である。近年、2004、2005、2009、および2015年に、大規模で広範囲な森林火災を経験した。特に2004年の森林火災は、記録のある1956年以降では、最大の焼損面積となった。2004年の焼損面積は、史上最大の面積で約26,700km2、2015年は史上2番目で20,900km2であった。この2年の焼損面積は、アラスカ北方林の約10.5%に相当する。
本研究では、近年の激しい火災期間の毎日の火災象条件を分析した。総観的気象条件は、高層(500hPa)および下層(1000hPa)の大気再分析データを使って分析した。大気再分析データに基づく総観的天気図は、気圧の高い条件下と低い条件下での広域森林火災活動を引き起こしていた激しい火災気象条件を明確にするために使用した。気圧の高い条件では、高気圧システムの南から北への移動に伴い、風向が南から南西寄りだったものが、北から東寄に変化した。これをロスビー砕波(RWB)との関連で考察した。RWBと火災活動との関連も考察した。
解析結果を要約すると、
1. 気圧の高いタイプの火災気象は、RWBと関連したユニークな気象現象下で生じた。RWBはアラスカ近傍で生じたジェット気流の大きな蛇行に伴う東寄の風で生じた。上層(500hPa)の尾根とブロック高気圧のために、下層(1000hPa)の高気圧は北へ動いた。この南からの北への高気圧の動きの間に、2の激しい火災気象条件が生じ、最初のホットスポット(HS)ピーク①と2番目のHSピーク②(同一火災期間中では最大、②>①)が現れた。
2. この2つのHSピーク、①と②は、2つの総観的火災気象条件下で生じた。HSピーク①は、上層・下層のアラスカ湾の気圧の尾根により、南と西寄りの風をアラスカ内陸部に供給し生じた。HSピーク②は高気圧がアラスカ越えて移動した後のボーフォート高気圧(BSH)で生じた。
3. 上層ブロック高気圧と連携してBSHが生じ、東寄りの風をアラスカ内陸部に供給した。この東寄りの風は、BSHとアラスカ内陸との大きな気圧差によるもので、最大のHSピーク②が生じた。HSピーク①の南と西寄りの風よりも強い風のために、HSピーク、①と②のHS数に違いが生じた。
4. 低い気圧の火災気象タイプでは、アラスカ内陸部に南と西寄りの風を供給されて、単一の大きなHSピーク①が生じた。この風の条件は、北極海の低圧のシステムおよびベーリング海の高圧のシステムの大きい気圧差で起きていた。
5. 以上の気圧の高い条件下と低い条件下でのアラスカ火災気象条件は予測できるかもしれない。本研究の結果から、(1)アラスカ近傍でのジェット気流の大きな蛇行の監視と(2)北極海での低気圧の発達とベーリング海での高気圧の発達の監視、が重要であると言える。