15:30 〜 16:45
[ACG24-P06] 雲解像モデルCReSSを用いた北極海低気圧の再現実験
キーワード:北極圏、大気海洋相互作用、雲解像モデル、ポーラーロー
これまでに雲解像モデルCReSS を用いて日本周辺(温帯域)や熱帯域での数値実験を実施しているが、寒冷域での再現性の確認は行っていない。本研究では、2013年9月に海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」による北極海域観測MR13-06期間中に観測されたポーラーローを対象として、CReSSを用いて実施した数値実験の結果と特徴を紹介する。「みらい」で観測されたドップラーレーダデータ・高層気象観測データ・船上観測データを用いて、CReSSの再現性の評価と改善点を示すことを目的とする。
水平解像度2.5 kmのCReSSを用いて、「みらい」定点観測点(西経168.25度・北緯72.75度)を含む2000 km×2000 kmで数値実験を実施した。鉛直は32層でモデルの上端高度は12.8 kmである。「みらい」のレーダで複数のポーラーローが観測された事例を対象として、2013年9月23日00時(世界時)を初期値として72時間にわたって計算を行った。GSM予報値を大気の初期値・境界値として、海面水温(SST)と海氷分布の初期値はOISSTを使用した。CReSSでは海中温度と地中温度を1次元熱伝導方程式を解くことにより、地表面からの顕熱・潜熱フラックスを現実的に表現することができる。また、海氷のパラメタリゼーションは含んでいない。
再現実験では、計算開始51時間後(9月25日03時)に、弱い降水(雪)を伴う総観規模の低気圧と、その南側に渦状の雲域を確認できる。同時刻のNOAA-AVHRRの可視画像(衛星画像)でもメソスケールの渦状擾乱が確認できることから、再現実験で少なくとも一つのポーラーローの再現に成功したと考えられる。「みらい」のドップラーレーダによる観測結果では、この渦状擾乱に伴ってエコー頂高度が4 kmに及ぶ対流性の降水域を観測した。しかしながら、再現実験では、この渦状擾乱に伴う雲域の厚さは1.5 kmと低く、深い対流性降水雲は再現されなかった。対流性降水雲の高さを確認するために、衛星搭載雲レーダ(CloudSat-CPR, 95 GHz)による20経路分の観測結果と、再現実験の結果に衛星シミュレータSDSUを適用して衛星観測と同じ鉛直断面における反射強度分布の比較を行った。この結果、衛星観測で観測される高度3 km以下における0 dBZ以上の大きな反射強度域が再現実験では見られないことから、今回の実験では深い対流性降水域の再現を行えていないことを確認した。
「みらい」定点観測点における海面水温(SST)の時間変化と再現実験の結果の比較を行った。初期時刻においては再現実験(OISST)のSSTは観測結果に比べて0.2℃低かった。その後、観測結果ではSSTがほぼ一定である一方、再現実験の結果では顕熱・潜熱フラックスの放出によりSSTが徐々に低下し、計算終了時(72時間後)には約1.0℃の乖離を示した。観測結果でSSTが一定であったのは、ベーリング海峡(南側)からの暖水が南寄りの風によって移流されてきたことによると考えられる。CReSSはこのような表層海水の移流を表現することはできない。再現実験におけるSSTの再現の失敗により、海面からの潜熱フラックスが観測結果よりも過小となるとともに、実験の最後の24時間にわたって海面付近に非現実的な飽和層(霧)を形成する結果となった。海面水温の再現の失敗と海面からの潜熱フラックスが過小であることによって、ポーラーローに伴う深い対流性降水雲の再現に失敗したと考えられる。これらの結果から、北極域において、高解像度の3次元海洋モデルを結合した大気海洋相互作用を再現する実験を実施することで、メソスケールの現象の再現性の向上を図れる可能性がある。
水平解像度2.5 kmのCReSSを用いて、「みらい」定点観測点(西経168.25度・北緯72.75度)を含む2000 km×2000 kmで数値実験を実施した。鉛直は32層でモデルの上端高度は12.8 kmである。「みらい」のレーダで複数のポーラーローが観測された事例を対象として、2013年9月23日00時(世界時)を初期値として72時間にわたって計算を行った。GSM予報値を大気の初期値・境界値として、海面水温(SST)と海氷分布の初期値はOISSTを使用した。CReSSでは海中温度と地中温度を1次元熱伝導方程式を解くことにより、地表面からの顕熱・潜熱フラックスを現実的に表現することができる。また、海氷のパラメタリゼーションは含んでいない。
再現実験では、計算開始51時間後(9月25日03時)に、弱い降水(雪)を伴う総観規模の低気圧と、その南側に渦状の雲域を確認できる。同時刻のNOAA-AVHRRの可視画像(衛星画像)でもメソスケールの渦状擾乱が確認できることから、再現実験で少なくとも一つのポーラーローの再現に成功したと考えられる。「みらい」のドップラーレーダによる観測結果では、この渦状擾乱に伴ってエコー頂高度が4 kmに及ぶ対流性の降水域を観測した。しかしながら、再現実験では、この渦状擾乱に伴う雲域の厚さは1.5 kmと低く、深い対流性降水雲は再現されなかった。対流性降水雲の高さを確認するために、衛星搭載雲レーダ(CloudSat-CPR, 95 GHz)による20経路分の観測結果と、再現実験の結果に衛星シミュレータSDSUを適用して衛星観測と同じ鉛直断面における反射強度分布の比較を行った。この結果、衛星観測で観測される高度3 km以下における0 dBZ以上の大きな反射強度域が再現実験では見られないことから、今回の実験では深い対流性降水域の再現を行えていないことを確認した。
「みらい」定点観測点における海面水温(SST)の時間変化と再現実験の結果の比較を行った。初期時刻においては再現実験(OISST)のSSTは観測結果に比べて0.2℃低かった。その後、観測結果ではSSTがほぼ一定である一方、再現実験の結果では顕熱・潜熱フラックスの放出によりSSTが徐々に低下し、計算終了時(72時間後)には約1.0℃の乖離を示した。観測結果でSSTが一定であったのは、ベーリング海峡(南側)からの暖水が南寄りの風によって移流されてきたことによると考えられる。CReSSはこのような表層海水の移流を表現することはできない。再現実験におけるSSTの再現の失敗により、海面からの潜熱フラックスが観測結果よりも過小となるとともに、実験の最後の24時間にわたって海面付近に非現実的な飽和層(霧)を形成する結果となった。海面水温の再現の失敗と海面からの潜熱フラックスが過小であることによって、ポーラーローに伴う深い対流性降水雲の再現に失敗したと考えられる。これらの結果から、北極域において、高解像度の3次元海洋モデルを結合した大気海洋相互作用を再現する実験を実施することで、メソスケールの現象の再現性の向上を図れる可能性がある。